ザ・グレート・展開予測ショー

造られた少女(中)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/10/18)

アウムドラは、ルオ商会の補給を受けるために、ニューホンコンから離れたルオ商会の補給基地に向かっていた。
「・・・・・・・!?」
横島は、玩具のグライダーが飛んでいくのを見た。
「・・・・・・?」
グライダーを追って、少女が走ってきた。
ボブカットの少女は、ひどく嬉しそうにグライダーを追っているのだ。
身を起こした横島の横を、グライダーを追うルシオラの笑顔が走り抜け、そのグライダーを掴まえた。
「すっげー美人・・・・・」
横島は思わず呟いていた。
グライダーを手に取ったその少女は、グライダーを差し上げたままクルッと体を回した。
「ここに住んでんのかな・・・・・」
自分と同じくらいの年に見える女性がそんな風にしているのを見て、横島は嬉しかった。
そのたっぷりとした衣装は、その女性の奔放な性格を表しているように思えた。その女性は、コーラルオリエンタル号のタラップに軽い足どりで向かった。
「・・・・・・?」
その女性がタラップの下で立ち止まった。
ピートとエミが降りてきたので待つつもりなのだ。横島は車から下りた。
「バイバイ!」
タラップの上で、公彦親子がピートとエミに手を振っていた。
「さようなら!ピート。」
ピートが答えるのを待たずに、エミはピートの耳元で言った。
「あの人たちは軍人でもICPOでもないワケ。・・・・なんでアウムドラに乗せようとするワケ?」
ルシオラは手の中でもてあそぶグライダーの動きを止めずに、そのエミの言葉を聞いた。
『アウムドラ・・・・!?ピート?あのピエトロ・ド・ブラドー!?』
ルシオラは、目でその二人を追った。
「君には分からないことだろうが、あの人は僕と政樹にとって大切な人なんだ。」
そんなピートの言葉に重なって、
「あ・・・・私の飛行機っ!」
ルシオラは、その子供の声にタラップの上を見た。今の二人を見送った親子がルシオラを見下ろしていた。
ルシオラは手にしたグライダーをかざした。
「あなたの?」
「そーっ!」
その女の子が元気よく答えたので、ルシオラはタラップを駆け上がっていった。
「もう、なくすんじゃないわよ。」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「・・・・・・・」
ひのめの屈託のない笑顔が、ルシオラの網膜に焼きついた。
「ご親切に、ありがとうございます。」
落ち着いた父親の言葉に、ルシオラは軽く応じながらも、その男の瞳の底に閃光のようなものを感じて戸惑った。
ルシオラは振り返ってピートたちを見下ろしながら、タラップを駆け下り始め、
『あの男は何者なの・・・・?』
ルシオラは、ピートに近寄る横島の姿を見とめて、足をゆるめ、桟橋の反対側のほうに移動していった。
「エミさん、こんな処でアウムドラの名前を出さないで下さい!」
横島が低く言った。
「なんでアンタがこんな処にいるワケ!」
「政樹館長の命令っス。ピートさん、急いでアウムドラに戻って下さい。」
そんな言い合いがルシオラの耳に聞こえた。
『間違いなくピエトロ・ド・ブラドーね。それならMK-Uを操っていたのも奴か・・・?』
ルシオラは知らずに横島の乗ってきたエレカの近くに来ていた。
それから三人のもめている様子を目の端にとらえながらも、ルシオラは足を止めることもなく、ゆっくりと市場の開かれている方に歩くようにした。
「分かったっス。じゃあ!」
三人のうちの一番若い少年、横島がクルッと向いて走ってきた。
ルシオラは木の下で立ち止まって、横島がエレカに乗り込むのを待った。
「・・・・・!」
今度はルシオラは、まっすぐに横島の乗ったエレカに向かって近づいていった。
フロントガラス越しに、横島がムッとした表情を見せていた。
視線があった。
そのエレカのエンジンが始動した。
ルシオラは笑ってみせた。
怒った表情をしていた横島の顔が、やわらかくなったように見えた。
「・・・・・ねぇ・・・・・!」
ルシオラは思い切って明るく声をあげた。
そして助手席から横島を覗き込んだ。
「旧市街まで乗せてくれない?」
「えっ?」
「旧市街の方に行くんでしょ?」
「行くことは行くけど・・・・・」
「ねっ!・・・・・お願い!」
横島は一瞬ピートとエミの方を見た。
二人はタクシー乗り場の方に行く様子だ。
横島は、ルシオラを見返して、先ほどの彼女のグライダーを追っていた姿を思い出していた。
「グライダー、どうしたんだ?」
「あの子のよ。返したわ。」
ルシオラの言葉に横島はコーラルオリエンタル号のタラップの方を振り向いた。
「バイバイ」
ひのめが、まだ手を振っていた。
「・・・・・ああ・・・・・!?」
横島が頷いて振り向いた時には、ルシオラはもう助手席に座っていた。
「いいでしょ?」
「もちろん!」
横島はエレカを発車させた。
「・・・・・あの恋人たち、お知りあい?」
「知らねえよ・・・・・傷を舐め合う男女の仲ってか・・・・・」
横島のブスッとした言い方がおかしかった。
「そういうことか・・・・・」
ルシオラは言った。
「・・・・・そう、そういうこと・・・・・」
「嫌だね・・・・・」
「まったく・・・・・」
横島のエレカは駐車している五、六台の車の横を通り過ぎていった。と、その中の一台に飛び込んだ男が無線機を取り出していた。
「ピエトロ・ド・ブラドーをキャッチ!コーラルオリエンタル号に滞在している子供を連れた男とピートは個人的に関係ありです。」
その男は、ホンコン特務機関の男であった。犬飼と接触をしたホンコン特務が尾行を開始していたのだ。
横島のエレカはニューホンコンと旧市街を結ぶ海底トンネルに入っていった。
横島は、ルシオラのようなタイプの顔が好きだと思い返していた。おキヌとは違う少しアダルトなところがいい。
「グライダー好きなのか?」
「空飛ぶものはみんな大好きね。」
「へー。あ、俺横島って名前だから。よろしくな。」
「私はルシオラ・・・・」
「るしおら?珍しい名前だな。」
「仕方がないわ。そう付けられてしまったんだもの・・・・・」
「そりゃそうだな。」
「ヨコシマか・・・・・なんだか懐かしい感じがする・・・・・・・」
「へ?」
「あ・・・・いや、なんでもないわ。昔、どこかでヨコシマって人と出会った気がしたものだから・・・・・」
「ふーん。」
横島は信号でエレカを停めてルシオラを見た。
ルシオラのやや薄い唇が、軽やかに笑っていた。
「・・・・・でも、なんだか落ち着くのよ。ヨコシマ・・・・・・」
横島は、ハンドル越しに横断歩道をわたる雑多な人種の群れを見つめながら、彼女が自分に気があるのではないかと微かに思った。いや、自分の心の中でそう決めつけていた。


コロニー移民時代にアジア地区の人々の移民を宇宙に上げた拠点が、このニューホンコンである。
海上には、三十キロに及ぶ巨大シャトル用の打ち上げレールが、まるで遊園地のジェットコースターのように遠望された。
もともとホンコンの不幸な歴史が、容易に地球連邦軍の租借地にしたのであろう。
が、そのために、一年戦争でジャオンが手をつけなかった数少ない都市として、コロニー移民以前の文化の保存地帯として残るのがこのニューホンコンである。
現在は、その都市の特異性故にアジア系以外の人種も流れ込んで、古い地球型都市の保存都市となっていた。
都市の博物館と思えば良い。そのためにまた、その都市の性格を隠れ蓑にして、ルオ商会のような背景の不明瞭な商社が存立し得るのである。
「だから、うかつに破壊などはできない・・・・それこそ国際世論がカオス教に不利に働く・・・・」
犬飼はリョウコに言った。
「ですが、ルシオラはドグラ研究所が膨大な資金を投入して完成させた強化人間です。このまま逃げられては・・・・・」
「失礼ながら・・・・・」
黒いチャイナ服を着た男がリョウコの言葉を遮った。
「犬飼少佐の要請で、わがホンコン特務の者が動いております。現にルシオラの動きは速やかにキャッチされました。しばらくは、静観をして、無傷でアウムドラを捕獲する手段を講ずるべきです。強行は最後の手段です。」
「・・・・・感謝はしています。しかしルシオラは、まだ精神的には万全という状態ではないのです。急いで掴まえて下さらないと作戦に参加できなくなります。」
「我々としても敵を探しにいったルシオラの勘で、ホンコンを傷つけずにアウムドラを手に入れられる方策を検討しております。無傷でアウムドラが捕獲できるのならばカオス教の世になった時に、我がホンコン特務も発言権が増すというものです。」
そのチャイナ服の男は狡猾そうに言った。
リョウコは、この種の人間が本能的に苦手であった。
「それは我がスードラも同じだ。カオス教の正規軍に昇格するためには、ここで追い込まなければならない・・・・・」
犬飼もまた、その男と同じ立場にいるのである。
「で、ルシオラは、今は?」
リョウコは、二人の男たちの事情など斟酌なく割り込んでいった。
「追跡しています。」
「ですが・・・・!」
その時入ってきたヌルが、犬飼に目配せすると、
「ミズ・リョウコ。サイコのことで、手を貸していただきたい。」
「ハッ・・・・・?」
「作戦にサイコを利用する。」
「ルシオラがいないのにですか?」
「ああ・・・・・せっかくの巨大MSだ。利用しない手はない。」
犬飼が補足した。
リョウコは、これ以上抵抗しても仕方がないと分かった。所詮、軍は男たちの世界なのである。

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