ザ・グレート・展開予測ショー

造られた少女(前)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/10/17)

ホンコンに遠くない海上低く、巨人艇スードラが飛んでいた。
その巨大な機体を支える浮力によって発生する気流が、海面を叩き、その飛沫が白い柱となって、あたかもスードラの機体を白い柱の上に乗っているように見せた。
そのスードラの機体の前部ハッチが小さく開いて、一隻の小型ホバークルーザーが射出された。
そのホバークルーザーに乗っている人影は、ウェットスーツに身を固めていた。
巨大な水柱の中を翻弄されながらも、ようやく水柱から抜け出したホバークルーザーは、海面をずるように疾走した。
そのホバーの通信機からは、ヒステリックな声が流れていたが、クルーザーを操縦するウェットスーツは、気にもかけなかった。
「ルシオラ、聞こえているのでしょう!インガです。インガ・リョウコです。すぐに戻りなさい!ひとりでどこに行こうというのです!」
ウェットスーツの少女は、背後に滑ってゆく巨大な金属の浮遊体を振り向きもしない。
スードラもまた、たった一隻のクルーザーのために進路をかえない。ゆったりと直進をしているほうが燃費の節約になり、楽なのである。
「言うことを聞きなさい、ルシオラ!!」
ヒステリックに叫ぶインガ・リョウコの脇に立った犬飼が、無線機を切った。
「なぜ切るのです!」
「ミズ・リョウコ、無線機は敵に傍受されてしまう。」
リョウコは乱れた髪も気にせず、ずれた眼鏡をあげた。
「船を出して下さい!ルシオラを連れ戻さなければ!!」
「分かっている。今、手をうっているところだ。冷静に、ミズ・リョウコ。」
犬飼は、同じように優しく言った。


ピートは、眼を左右に動かした。
その視界一杯に迫るのは、コンクリートの天井であり、壁だった。ひどく近くで、人の足音や車の音がした。
ピートは顔を上げた。
鉄格子のはめられた窓があった。半地下の部屋であると分かった。窓の外にはドライ・エリアがあり、その上に道路が見上げられて、街の雑踏があった。
ピートは、閉じ込めるにしては、無用心な部屋だなと思った。
「・・・・ドジをやったな・・・・・」
体の節々が痛んだが、構っていられなかった。
鋼鉄製の扉の前に立ってみた。
「・・・・・・・」
開くわけはないと思ったが、ノブに手を掛けてみた。
「・・・・!?開く・・・・?」
ピートは、期待に反して開いたドアの動きに戸惑ったものの、ドアの向こうに大きな男の眼球が光るのを見た。その男のむきだしの肩がヌラリと脂で光った。
その男は、黙って傍らのインターカムを取り上げたので、ピートはドアを閉じた。
「・・・・・無理そうだな・・・・・」
体の痛みに、また肉弾戦をやる気がしなかったのだ。
ピートが簡易ベッドに腰を下ろしてまもなく、鋼鉄のドアが開いて、褐色の肌をした女性が入ってきた。
「お目覚めですか。」
ピートは、意外な人物の登場に戸惑った。
「・・・・・あなたは・・・・」
「父上になにかごヨウですか?」
「あなたは・・・・・!?」
ピートは同じことを聞きながら、その女性は、事務所の窓口の奥に座っていた女性だと気がついた。
「ルオ・ウーミンはワタシの父です。ワタシは、ルオ・キャラットといいます。」
ピートは立ち上がろうとして、腹部を押さえた。まだかなりの痛みが残っていた。
「無礼はお許しください。でもアナタがいけないのです。コウゼンと父上の名をダすことがどんなにキケンなことか、アナタはご存じないのです。」
「では、わざと僕を?」
「ここはニューホンコンです。どこに敵の目が光っているかワかりません。ここで父の名をダすのはゼッタイにタブーです。」
ピートは、多少状況が読めた気がした。
「・・・・・お父様に会えますか?」
「父上はここにはいません。でもレンラクはトれます。」
「お願いします。至急、会いたいのです。Gメンにご協力いただける方と聞いて参ったのです・・・・・」
「アナタも軍人なのですか?」
キャラットは、別のことを聞いた。
「え?」
「ゴメンなさい。軍人らしくないので。」
「僕は軍人ですよ・・・・・」
「タタカうのがスきなんですか?」
「・・・・・そういう言い方は、軍人に対して失礼ではありませんか?」
ピートは、キャラットを偏見を持つ女だと思った。
「申し訳ありません。父上の名代をやっております。Gメンの御用をウカガいましょう?」
「ありがとう・・・・・ルオ・キャラット。・・・・・気になる事があります。僕と一緒にいた家族を、追ったり、捕らえたりはしていないでしょうね?」
「ルオ商会は、商売をするカイシャです。そんなこと・・・・・」
キャラットの唇に笑いが浮かんだ。
「・・・・・・?」
「でも、おトモだちが小笠原エミでコーラルオリエンタル号にトまっていらっしゃるのが美神公彦というところまではシラべました。現在、お二人は、コーラルオリエンタル号にいるということもシってます。いらっしゃる?」
「どこへ?」
「コーラルオリエンタル号です。打ち合わせがオわったら、行けるようにテハイしましょうか?」
「ありがとう。キャラット・・・・・」
ピートは、キャラットの手際の良さに感嘆すると同時に、彼女ならば、Gメンの必要とする全てのものを手にいれてくれるような気がした。


現在のコーラルオリエンタル号は、ホテルである。
南米から、南ポルネシアを観光して来た船は、ホンコンで地球連邦政府から足止めを命令されたが、公彦親子のように観光に名を借りてジブローを脱出しようとした家族にとっては、もっけの幸いといえた。
しかし、ホンコンを動けないとなると話は別で、いつ地球連邦政府軍の手がのびて、監禁されないでもなかった。
公彦の場合、妻である美智恵が、ICPOに荷担したという事実がある。
そのコーラルオリエンタル号のデッキは洗濯物で満艦飾だった。
船は、ニューホンコンから日常の電力使用に制限が加えられていた。そのために、洗濯などは手でやるしかなく、その主婦たちは大半が白人でだった。
こうなると、豪華客船のコーラルオリエンタル号も、難民の溜まりのような雰囲気になって、停泊を続けているのである。
洗濯物が縦横に干されているサン・デッキでは、子供たちが駆け回り、観光専門の老人たちも一日中、そこで日光浴をするのだった。
「それっ!いけ〜〜っ!」
ひのめは、自分で投げたグライダーを楽しそうに追いかけていた。
そんな人々に背を向けている赤いチャイナ服の少女が、小笠原エミである。
エミは、デッキの中央のパラソルを気にしていた。パラソルの陰に、ピートと公彦がいるのだ。
「僕にアウムドラに乗らないかというのは、君の考えかい?」
「政樹に報告もしました。彼だって、連れて来いと言っていました。」
「昔とは違うよ。Gメンは僕の知らない組織だ。行きづらいな・・・・・」
「宇宙行きの切符は、いつ取れるか分からないじゃないですか。戦況が悪化すればするほど宇宙に出るのは難しくなるんですよ。そうなれば、いつ美智恵さんに会えるか・・・」
「妻には会いたいよ。でも、そのためにひのめを戦いに巻きこむようなことはできない」
「あ――っ!」
ひのめの声に二人は、デッキの一方を見た。
風に乗ったグライダーが、ジャンプしたひのめの手の上を掠めて、エミの横を抜けていった。
エミは、グライダーが桟橋の方に流れてゆくのを見たが、どうしようという気は起きなかった。
ひのめの叫び声を聞きながらも、エミは、ピートが早く話を切り上げてくれる事を祈るだけだった。
「・・・・・もと木馬で操舵手をやっていた男か・・・・・」
先刻の手際の良い公彦の行動を思い出していた。となると、エミはピートが公彦と接触するのを駄目だとは言えないのだ。
ひのめが、公彦の方に駆け寄って、グライダーが外に落ちてしまったと訴えていた。
その公彦が、ひのめを抱き上げて、
「しょうがないな。また、下に降りた時に買ってあげるよ。」
「いや―っ!」
エミは、その公彦を見て、彼がニュータイプかもしれないというピートの言葉だけは信じたくないと思うのだった。
エミは潮時と思ってピートに歩み寄った。
「ピート、もう行かないと・・・・・。横島も下で待ってるワケ。」
「ああ・・・・明日の早朝にはアウムドラはここを出ます。だから・・・・・」
席を立ちながらピートは、もう一度、公彦に言った。
「ありがとう、ピート。」
そんな二人にエミは、何となく不快感を抱いて、先にタラップの方に歩き出した。
ひのめの投げたグライダーは、ウェットスーツを脱いでいるルシオラの前に流れて、桟橋の上に落ちた。
ルシオラは、クルーザーを桟橋に寄せて着替えをしているところだった。
黒いランニングの上にたっぷりとした紺地の衣装被った。そして、桟橋に上がり、グライダーを拾った。
「・・・・・・・?」
ルシオラは、コーラルオリエンタル号のデッキで、子供たちの明るい歓声がするのを聞いて、そこから落ちてきたのだろうと思った。
それは、とても素敵に人の肌のあたたかさを感じさせる声だった。
だから、ルシオラは、手にしたグライダーを上にかざすと、そのグライダーの飛ぶ姿勢を真似ながら駆け出していた。
ルシオラは、グライダーが空を飛ぶものだと知っている。
そう、知っているのだ。
それは、ルシオラにとって、とても良い感覚を思い出させてくれるような気がした。
そのルシオラが走る方向、コーラルオリエンタル号のタラップの前に、一台のエレカが停車していた。
横島が、シートを深く倒し、カーラジオの音楽放送を聴いていた。
ピートが、ルオ商会からコーラルオリエンタル号に向かったと聞いた政樹が、横島を出迎えによこしたのである。

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