ザ・グレート・展開予測ショー

ニューホンコン


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/10/16)

日本本土が遠望される洋上にスードラがいた。
「サイコ、まもなく当機と接触します。」
「よし、速度を落とし、左15度に旋回。ホバリング態勢に入る。」
朝焼けを背に、静止しているかに見えるスードラである。
その左下後方から、かなりのの速度で接近してくる黒い飛行物体があった。
スードラの機体の下から何本ものワイヤーが降りて、接近する黒い物体を待った。
ワイヤーのジョイントが、その物体に接触をして、固定してゆく。
その黒い物体の内部から発する重い音が消えてゆくにつれて、スードラの核融合エンジンの出力が増す。
が、それでも、その物体の浮力が止まるとスードラは、その巨体を沈めたのである。
「何事だ!?」
揺れる気体に、犬飼はさすがに声を発した。
「サイコを係留しました。」
「・・・スードラの格納庫にも入りきらんし、これか・・・・・」
犬飼は思わず苦笑した。
「サイコのパイロット、上げますっ!ドグラ研究所のインガ・リョウコも同伴しております!」
ヌルが、モニターを通して犬飼に報告をした。
「よし、私も降りる!」
犬飼は、ドグラ研究所が送り込んできたパイロットに興味があった。
サイコのコックピットに降ろしたゴンドラが、スードラの格納庫に上がってきた。
ヌルが覗くと、そのゴンドラの手すりにしがみつく若い女と、パイロットスーツを身につけたパイロットが見えた。
「イ、インガ・リョウコです・・・・・」
左右から兵に腕を支えられた女性が、ヌルに言った。
「高い所は苦手なんです。」
パイロットスーツの方は、ゴンドラから下りて、近づく犬飼の方を見守るだけだった。
犬飼は、その細い体を見て、嫌な感じがした。
パイロットスーツが、ヘルメットを取った。犬飼の勘が当たり、案の定、女だった。
そのショート・ポブのような髪型のパイロットは、律儀な敬礼をして、
「ルシオラ少尉、只今到着いたしました。」
「若いな・・・・・?」
犬飼は、リョウコに目をやり、
「ミズ・リョウコとお呼びしてよいのかな?」
「・・・ありがとうございます。ニュータイプ研究所の日本支社、ドグラ研究所から参りました。」
「お目付役というわけか。」
「ご報告は後ほど致します。」
「犬飼少佐、お願いがあります。」
ルシオラは、ずかっと前に乗り出した。
「なにか?」
「出撃後は、私の自由にやらせてもらいたいのです。」
「どういうことだ。」
「他人の指図で動きたくない、ただそれだけです。」
「自信があるのは結構だが・・・・ここは軍隊だぞ。」
「許可をいただけないのなら、日本へ帰ります。」
「少佐、そのことも後ほど、私からご報告を・・・・・」
リョウコが、二人の間に入った。
「・・・・・サイコのパイロットか・・・・・いいだろう、好きにやってみろ。」
「はっ!ありがとうございます。」
「ミズ・リョウコは、こちらへ。」
犬飼は、面倒なものが入り込んだのではないかと思った。

ニューホンコンは、一年戦争の傷を全く受けていない。
それは、コロニー移民時代の重要な宇宙港であったからだ。そのために、地球連邦政府の租借地として独立した行政権を有し、その特異な性格が、旧世紀の匂いを残しながらも、犯罪をと野心が渦巻く都市にしていた。
旧香港とスペースシャトル発進のための港の機能を持つニューホンコンが渾然一体となり外海には、スペースコロニーに向かうシャトル発信用の巨大なレールが、香港の景色をかえしていた。
しかし、現在は、その港は静寂を保っている、スペースコロニー向けのシャトルの発進が極度に制限されているからである。
カオス教とICPO紛争の影響であった。


旧香港の雑多な市街は、一日に一度は、必ずあるナギのお陰で空気が澱み、べとつく暑さが肌と衣類をくっつけた。
その表通りをチャイナ服を着たエミとアロハ・シャツのピートが歩いていた。
「こんな景色、横島君は知らないだろうな。連れてきてやればよかったな。」
「遊びじゃないワケ!」
ピートは、エミのきつい言い方に、横島が嫌いなのだと分かる。
ピートは、正面の石造り風に建てられた建物を仰ぎ見た。
「ここだ。ルオ商会・・・・ルオ・ウーミンの根城だ・・・・・」
二人は、商会の正面のエントランスに入った。天井が低く、なによりも、人いきれに溢れていた。
正面奥の通路は、銅製の鉄格子があって暗く、余所者が入っていける雰囲気ではない。
やむなく二人は、人がごたつく右の部屋に入っていった。
そこは、チケット売り場である。
低い天井には扇風機が回っているが、すえた人の匂いをその場で掻き回すだけで、そよとも涼しい風を送りはしない。
その部屋の奥には、格子越しに幾つもの窓口があって、列が作られていた。
手前の部屋には、木製のベンチが並べられて、待つ人の塊があった。
その暑さの中で、窓口の列に割り込んで口論する男たち、疲れきってグッタリした老人、床の新聞紙の上に座り込む女達の姿があった。
そんな中で癇に障るのは、母親に抱かれて泣く赤ん坊がいることだった。
「コロニー行きのチケット売り場?」
「ああ、月に四便ほどの不定期便が出ているらしい・・・・・窓口に聞くか?」
ピートは、エミを通路に待たせて、人の匂いの中に入っていった。
「(うわ・・・ニンニクに勝るとも劣らない匂いだな・・・・・)」
ピートは思わず鼻をつまんだ。
そして、何人かの人の膝を跨いだ時、ピートは足を止めた。
中央のベンチに知った人を見つけたのだ。
「・・・・・公彦さん・・・・・?」
その男性の背中と首筋と顔色は間違いなく美神公彦だった。
が、ピートを迷わせたのはその男性の向こうに小さな子供がまとわりついているのが見えたからだ。
「・・・・まさか・・・・・」
公彦は、美智恵と結婚して、南米、ジブローにいるはずであった。
ピートは、その男性の肩近くまで近づいて、やはり公彦だと分かった。
「・・・・・公彦さん?」
その男性が、ピートを見上げて、その目を見開いて言った。
「・・・・・ピート?ピートなのか?」
「やっぱり、公彦さん・・・・・」
公彦は、立ち上がって、ピートの体を下から上に見て、
「驚いた、ほんとに!・・・・どうしてここに?」
「あなたこそ、・・・・ジブローではなかったんですか?」
公彦の後ろにいる栗毛の少女が、不思議そうに見上げているのをピートは見返した。
「僕と美智恵の子供だよ。名前は、ひのめ。」
「あれ?・・・・・令子ちゃんはどうしたんです?木馬では一緒だったのに・・・・。」
「・・・・・・」
ピートのその言葉に公彦の表情が一瞬曇った。
「令子は・・・・・今、行方不明なんだ・・・・・」
「なんですって!?」
「7年前の戦争が終わってすぐにね・・・・・。置手紙が残されてて・・・・・ジャオンの赤い閃光に会いに行くんだって。どうやらジャスティスに惚れてしまったらしいんだ。困ったもんだよ・・・・・。」
「・・・・!!」
「ピート!」
ピートは、近づいてきたエミを見て、
「あ・・・公彦さん、紹介しましょう。こちらは、小笠原エミさん・・・Gメンの・・・」
ピートは最後の言葉を小さく言った。
「Gメンの・・・・?じゃあピートも?」
「はい・・・・公彦さんもコロニー行きのチケットを?」
「そうなんだ・・・・でも、闇のチケットでも手に入らなくてね・・・・・」
「どこに泊まってるんです?」
「コーラルオリエンタル号だよ。船も動かなくなってね。ジブローからは、美智恵の言う通りにでられたんだけど・・・・・」
「ああ、港に停泊しているあの大きな白い船ですか?」
「・・・・・でも宇宙に行っても美智恵さんに会えるって保証は・・・・・」
「それでも構わないさ。地球連邦政府の監視つきの生活はごめんだよ。この子を宇宙で育てたいんだ。それが美智恵の希望でもある。」
ピートは何も言えなかった。
「ピートは・・・どうするつもりなんだ?地球に残るつもりかい?」
「僕は・・・・・」
ピートがチラッとエミを見たのを、公彦は見逃さなかった。
「パパ・・・・!」
ひのめが、公彦のズボンの裾を引っ張ったのだ。鼻水が出ている。
「こらこら。」
公彦は、かがんでひのめの鼻をかんでやった。
「父親ですね・・・・公彦さんは。」
「もう7年だ・・・・・良くも悪くも人は変わるさ。」
「・・・・・ピート、時間が。」
「分かってる。公彦さん、ここで待っていて下さい。すぐ戻ります。」
ピートは、窓口のひとつに割り込み、背後の怒声を無視して、
「ルオ・ウーミンさんに会いたいのですが・・・・・」
と言った。
窓口で事務をとっていた女が、そのピートの声にギクッと顔を上げて、チラッと奥の方に顔を向けた。
ピートは、その視線の先に若い女性がいるのを見た。いかにも。切れる風の女だ。
「順番を乱さないで下さい!」
窓口の女がきつい調子で言った。
「チケットの話で来たんじゃない。ルオさんに会えれば・・・・・」
「後ろにまわんなよ!お前みたいなのがっ!」
列を作る男が、ひどい中国なまりの英語で食って掛かった。
「すまない。すぐ済むから・・・・頼みます。ルオ・ウーミンさんに会える手筈をととのえてくれれば・・・・・」
「兄ちゃん。」
言われるのとハンマーのようなごつい手がピートの肩を掴み、体を捩じ曲げさせたのは同時だった。
「・・・・なんだよ!」
ピートが言う間もなかった。その男の鉄拳がピートの顎に決まっていた。
不意をつかれて、ピートの体がカウンターにぶつかって滑った。
順番待ちの人々が、重苦しくざわめいた。
「・・・・・!?ピート?」
エミと公彦が、その光景に気がついた時、ピートは、カウンターの下から立ち上がっていたが、数人の男たちが飛びかかっていた。
「逃げろっ!」
ピートの声がエミと公彦に聞こえた。
「黙らせろっ!」
男たちが、ピートの体を押し込むようにして言った。
「エミさんっ!」
公彦は、素早くエミをうながすと、ひのめの手をひいて、通路の方に飛び出していった。
ピートと男たちの乱闘があっても、列を作る人々は、列を崩さないようにして、乱闘の周囲から逃げ回った。

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