ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(62)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/10/11)

 ―――永遠が手に入れば、幸せになれると思っていた。
 この身に、世界に、無限の時を宿すことが出来れば、全ては救われると。
 ―――永遠が、欲しかった。
 悲しみを最後に癒すのは、ただ穏やかな時の流れと人は言う。
 時の流れに身を任せ、癒されるのを待ちなさいと。
 人はそう―――言うけれど、この身に燻る痛みを癒すには、人間に許された有限の時はあまりに短過ぎるように思えて。
 ―――永遠が、欲しかった。
 無限の時がいつか全てを癒してくれると―――そう、信じて―――

「あ……あ、あっ……ぅあっ……!!」
 切れ切れに叫び、木々を薙ぎ倒して吹き飛びながらも、加奈江は永遠を思った。
 さすがに、先ほどまでのように、エミ達を相手にしていたのとは違う。
 凄まじい魔力を伴った蹴りを受け、ぐわんぐわんと、頭の中で脳みそが回っているのではないかと言うひどい脳震盪と耳鳴りを感じながら、体を思いきり丸めて歯噛みすることで痛みをやり過ごした加奈江は、数キロほど吹き飛ばされてからようやく止まることが出来た。
 ほとんどぶち当たるようにして立ち止まった巨木の根元に手をつき、深呼吸を繰り返して息を整える。
 顔の横から出血したのか、ひどい痛みを感じて反射的にそこを押さえた手のひらに、生温かいぬめった感触を覚えるが、それも一瞬のこと。
 長く深い呼吸を繰り返している内に傷は塞がり、乾いて皮膚から剥がれ落ちてゆく血の跡を袖口で拭いながら、加奈江は笑った。

 ―――ほらね、痛みが消えていく。傷が癒えていく。
 それは、永遠を手に入れたから―――
 私は傷つかない。傷ついても、こんなふうに癒される。
 癒されるの。癒されるのよ。私は―――

 ニイと笑って振り仰いだ満月の、青白い光を受けて蘇る記憶。
 井戸の底から繋がった、あの地下室の天窓の下。
 月明かりに照らされて、倒れていたのは、あの永遠を持った金髪の少年なのか、それとも―――
 白い喉首を晒して、月明かりの射し込む天窓を仰ぐ人影。
 喉から迸った血は中空に弧を描き、ぺたりと顔に貼り付いて。
 抱き止めた身は、ぬくく柔らかく、命の名残を灯していた。

 胸に走る鈍痛。
 あまりに激しい絶叫は声にならず、喉は、壊れた笛のようなヒューヒューと言う掠れた息を吐くばかりで。
 自分の血管が全身を締め付けてきているような痛み。
 それは、身の内から湧き起こる、逃れられないもので―――

 懐古と共に蘇る鈍い痛み。
 しかし、加奈江は笑っていた。
 この痛みも、癒されていく。
 永遠の時が、きっと―――だから―――
「だから私は永遠が欲しい……」
 自分の中にわだかまる痛みを癒すには、人間に許された時間では足りない。
 全てが癒されるまで待てるだけの、長い時間が欲しかった。
 そして、彼もきっと―――
「永遠が全てを救ってくれるわ。全ては癒されて、変わらない世界の中で私はもう何も失わないですむ……。貴方だって、救われるのよ。ねえ……!!」
 髪を振り乱し、救いを求めるように、夜空の月に手を差し伸べる。
 その満月を背中に負って、ピートが中空に浮かんでいた。

 さらさらと、夜風に揺れる長い金髪。
 黒い眷属を付き従えた姿は、夜の申し子、闇の貴族と言う気障ったらしい言葉があまりにも似合い過ぎていて、冗談にもならない。
 死体から出る燐火のような、青い鬼火を宿した怜悧な瞳で自分を見下ろすピートに、構わず加奈江は手を伸ばして言った。
「癒されるのよ。何もかもから置き去りにされてきた貴方の心も―――痛みも。永遠が―――無限の時間が、変わらない世界が何もかもを癒してくれるわ」
「―――違う!!」
 叩きつけるような拒絶。
 しかし、激しくきっぱりとしたそんな反応に対して、ピートの顔に浮かんでいた表情はひどく苦しげなものだった。
 先ほどまで、静かな怒りを宿しているだけだったその顔に、怒りとは相反するもの―――深い憐憫や、慈愛と言ったものが見て取れる。
 あくまでも永遠を求める加奈江を、改めて前にして、ピートは、二つの感情を抱いていた。
 仲間を傷つけられたことへの怒りは、もちろんある。
 しかし―――それと同時に、深い憐憫や同情と言った感情をも、ピートは加奈江に対して感じていた。
 加奈江は、矛盾している。
 そのことに、彼女は自分では気づいていないようだし、ピート本人も上手く説明する自信の無いことであったが。
 加奈江は、矛盾している。
 その矛盾は、かつて、ピート自身も知らずに抱えていたもので―――
 だから、ピートはかぶりを振って叫んだ。
「貴方は……可哀想です。貴方を見てると、苦しくなる……!!」
「……何を言うの?ピエトロ君。私は幸せよ。だって、永遠を手に入れられたんだもの。私はこれで幸せになれるの。貴方もそうでしょ?全てが永遠になれば―――」
「違う!!僕は……僕は、そんなもの、いらない!!」
 叫びながらピートは、光弾を放っていた。
「いらないんです……『永遠』なんて僕は持ってない!!持ってない!!持っていたくなんか、ないんだ……!!」
 腹の底から、血を吐き出すようにして叫ばれた声。
 ふわりと逃げる加奈江の姿と、それを追うピートの影。
 ―――決着が、近づいていた。

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