ザ・グレート・展開予測ショー

シャトルへ


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/10/11)

エミは、格納庫の前部のハッチが開かれて、『コメット』の機体が浮き上がってしまうのを必死で制御していた。
と、赤い色をした発光信号が輝き、政樹の発進命令が下った。
「行くわよっ!」
エミはコメットの出力を最大にして、アウムドラから離脱した。
その背後に待機していた十式とMK-Uは、一機のドダイ改に身を寄せ合って乗っていた。
「横島君、行くぞ。」
「了解!」
マルチ・モニターに西条の顔があった。
重いMSを背負ったドダイ改もまた、コメットのようにぼんやりとした発進スピードでアウムドラのハッチから吐き出された。
「リニアシートのアームに足を挟まれないように。」
ディアスのピートの言葉はジークには余分だった。
「大丈夫!」
ジークは短く答えていた。
「なんで、大尉の機体に乗らなかったんだ?」
「・・・嬉しかったんです。ピートさんがMSに乗る気になったのが・・・・。出迎えのアーギャマには美智恵キャプテンが乗ってるっていいます。ちゃんとそう報告できるのは、いいことなんじゃありませんか?」
「行く!」
ピートは、ディアスの乗るドダイ改を発進させた。
それを見送るように数機のノモが、ライフルを構え、全周囲監視をしていた。
政樹たちの心配通り、雲の中を追尾するスードラもまた、ヒッコリーの発光信号をキャッチしていた。
「光は真下です!」
「間違いないっ!」
その報告は、スードラの全クルーを沸き立たせた。
雲の中で敵の飛行機などキャッチできるとは思っていなかったのだ。それが、思わぬ近くに遊弋している。
「ヌル大尉!ギャップランの働きを邪魔せず、しかもザック隊には確実にアウムドラを押さえさせろ。多少の損傷は良いが、アウムドラを捕獲するのだ。いいなっ!」
「了解であります!」
犬飼は、マリアについてきたヌルが、ただの強化人間のお守り役では困ると考えているのだ。
確かに、強化人間は、薬物、催眠療法、臓器移植などで人間の戦闘能力を強化された人間である。しかし、その本質は、人間の生態の改造にあるのではなくて、基本的には精神の強化策である。基本は、薬物投与による精神弛緩策、速度感覚を遅くすることによって、実際の動きを遅く感じさせたり、恐怖感覚を喪失させる。
そして、逆に、肉体のリアクションのスピードをあげるための薬物投与があり、精神的な催眠コントロールを成体に施すというのが実態である。
勿論、本来の強化人間対策に関しては、バイオテクノロジーそのものを利用した成体改造であるのだが、その実態は一般の将兵の知るところではない。
十機のザックが、四機のベースジャバーの上で待機し、それにマリアのギャップランである。
犬飼には、勝利は確実だと思えた。
「マリア、戦えるぞ。大丈夫か?」
「ノー・プロブレム!」
マリアのひどく明るい答えがモニター越しに返ってきた。


霧の中を行くエミのコメットと翼をすり合わせるようにして、十式とMK-Uを乗せたドダイ改が滑空していた。
その直ぐ後には、同じドダイ改に乗ったピートのディアスが飛んでいた。そのピートのシートにかじりつくのは、宇宙に帰るジークである。
ピートもまた政樹と同じ感慨に捉えられていた。
かつての木馬のクルーが、西条を中心にして行動しているという奇妙さである。
「因縁としか言いようがない・・・・・」
ピートは、西条の個人的な思いなど知らない。美智恵は、西条の妹、愛子から事情を聞いていたようであるが、ピートは知ろうとしなかった。
当時は、それほどに敵愾心だけに捉えられていたのだろう。
敵の心を読もうという気はなかった。
ましてマリンという女性を中心に考えた時はなおさらのことであった。簡単に言ってしまえば、恋敵である。西条がいたために、マリンが死んだのである。そして、西条から見れば、ピートがいたからマリンは死んだといえる関係なのだ。
因縁としか言いようがなかった。
「大丈夫か?」
「大丈夫・・・・」
ピートは、ジークの返事を聞いた途端、頭上に圧迫感を感じた。
「ん!?」
天を振り仰いだ。
雲の白さ以外見えるものなどはないのだが、ピートは、敵の感覚が飛んでくる方位を察知していた。
ピートの関知したとおりであった。
アウムドラの上空の白い闇の中を矢のように飛ぶマリアの変形MSギャップランがあった。
「あの・感触・・・・・・」
強化人間というお題目は、所詮は研究者達の都合で作られた用語で、彼らの理想を示すものでしかない。
マリア自体の脳裏にある、空が落ちてくるという恐怖は、拭い去られることはない。研究者達も、そのマリアの恐怖感覚をスプリング・ボードにして、戦闘者として訓練をしただけのことであった。
だから、その狭間で苦しみ戦うのは、マリア自身でしかない。
「空を・落とす人・抹殺・します!」
そうしなければ、マリアは、一生恐怖を背負って生きてゆかねばならない強迫観念にとらわれていた。
その恐怖が、若いマリアの体を鞭打つのだ。


「敵が真上から?まだ、MSが出たことは気づかれていない。」
「西条大尉たちに連絡は!?」
「シャトルに乗りたかったら黙ってるんだ!」
ジークを黙らせると、ピートは、ディアスが乗っていたドダイ改を上昇させた。
ピートは、この間合いならば敵はアウムドラに集中して、MSの攻撃を予測していないだろうと考えたのである。
「滑走路が見えた!ダルマサンもっ・・・・!」
霧の薄い部分に、突然ヒッコリーの焚き火の明かりが見えて、エミは叫んだ。
エミは、これでピートに分かれるのかと思った。
コメットに導かれ、地上を縫うように進んでいた十式とMK-Uも、かすかにヒッコリーの焚き火の列を発見していた。
「あんな処に・・・・?」
横島の視界に発射台の上のシャトルが見えてきた。
ピートは、正面のモニターにできる限りマルチ・モニターを出して、前方を拡大した。
そのひとつに、機影を見た。
「そこかっ!」
ディアスはライフルを連射した。そのビームは、雲の中に太い光の帯を浮き立たせ天に向かった。
「・・・・・?」
マリアは、ギャップランを変形させて、MSになった。そのままの角度で降下して、ビームの飛んできた方向に降下した。
何も見えない。
が、マリアは、急速に黒いイメージが接近するのを感じていた。それは塊である。下から突き上げるものにマリアは、本能的に嫌悪感を抱く。
ギャップランの両肩のビームが、光の柱となって落ちた。が、それに沿ってディアスの赤い機体が上昇し、雲の上にまで舞い上がった。
「逃がしません!」
マリアの凶暴な感情に火がつき、もうヌルの命令などは忘れて、ディアスを追った。
「・・・・・この・パイロット・違う!?」
そのマリアの迷いにつけ込むように、ドダイ改に乗ったディアスは、ギャップランの背後に回ってバルカンを仕掛けた。
「く・・・・!」
ガガッ!装甲が剥がされたようだ。直撃の一瞬前にマリアは、回避運動をさせる自信はあった。
マリアは背後に何かを感じて、ギャップランの機体を一回転させて、MAに変形して戦闘空域を脱した。
ピートは、ディアスの乗ったドダイ改をシャトルの近くに降下させていった。
「ジーク!西条大尉が待っている!」
その戦場から少し離れて、地上スレスレに降下するアウムドラは、ヌル隊のザック隊、数機の攻撃を受けていた。
「駄目やっ!低いだけではっ!ヒッコリーへは近づくなっ!」
「はっ!」
アウムドラを追うヌル隊のビームも、雲が邪魔して照準を合わせることはできない。
アウムドラに接近すれば、アウムドラとアウムドラに乗っているMSの攻撃を受ける。
十式とMK-Uを乗せたドダイ改は、焚き火の誘導に沿って降下し、シャトルの前に着陸をした。
その上空をエミのコメットが旋回し、エミは、雲の一角に火線を見たように感じた。
「・・・・・・?」
こんなに都合よく敵が襲ってくるものだろうか、とエミは思ったが、ピートのディアスの姿が見えないので、コメットを上昇させようとした。

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