ザ・グレート・展開予測ショー

自殺者の幽霊(2)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/10/ 5)

 有明不動産から自転車、電車と乗り継いで約1時間。
 写真に示されたマンションは、人の気配を感じさせない、静かな所だった。
 管理人すら存在しない。俺は預かっていたマスターキーを確認すると入り口のオートロックをあける。
 吹き抜けのロビー。午後の日材を浴びて吊るされた豪華なシャンデリアが輝く。
 しかしこの静やかな空間の中ではその乱反射された光すら、酷く不気味なものに見える。 「出るのは、207号室、だったよね?」
俺は無意識の内におキヌちゃんに話し掛け始める。
「そんなに強い霊気は感じないよね」
「なぁに、いざとなったら文殊でまとめて吹き飛ばすさ、心配しないで」
心配してるのは俺だよな。冷静に考えることすら出来ないほど、不安があった。
「エレベータは使えないみたいですね、横島さん」
「電気来てないのかな」
俺達は階段を上がっていく。徐々に雑霊の気配が濃くなっていく。思っていたより多い。
綺麗に掃除されているように見えるが、けっこうな時間人の出入りがなかったせいだろう、物理的にも霊的にも空気が汚れている。
「見鬼くん出して」
おキヌちゃんに見鬼君を出すように頼む。
「必要ですか?」
「一応ね。やな予感がするんだよ」
その予感が正しいのか正しくないのか。
外れるに越したことはないけど、最近やたらと間が鋭いしな、俺…。
二階。気配はない。見鬼君は中レベル以上の霊気に反応するようセットしてある。いちいち雑霊には構っていられない。
『こっち、こっち』
見鬼君は更に先を指し示す。俺達は油断せずに先へと進む。
三階、四階。
4階に来て見鬼君の反応が鋭くなる。
『こっちこっちこっちこっち』 
そしてある一室を指し示した。207、間違いない。
俺達は顔を見合わせて、同時に頷く。
「あけるよ?」
「はい」
ドアノブを掴む。ピリリ、と静電気の走るような感触が走った。
「ッツ!!」
思わず手を引っ込める。
「如何したんですか横島さん!!」
「いや、大丈夫。おキヌちゃん、少し下がってた方がいいかもしれない」
香の匂い…。さっきまで気付かなかったが、確かに香の匂いがする。
どこかで嗅いだ…。
俺は唾を飲み込む。プレッシャーを感じる。何かとんでもないことになりそうな予感がした。
 美神さんの言葉を思い出す。
『自殺者の幽霊は事故死なんかよりより強くこの世に執着することがあるのよ。死んでから後悔して、後悔の後に執着がくるわけよ。取り返しがつかない事を知っていても、それでも執着する。そういう念はよりダーティな念に変わり、周りを巻き込んでいくわ。中には動物霊なんかまで巻き込んで、並みの悪魔なんかより力を持つのも出てくるから、気をつけてね』
「でもそれほど強くはないだろうな」
思わず小声で呟く。感じる霊気は今の俺ならなんてことない程度だし、おキヌちゃんもいる。
 彼女のネクロマンシーとしての能力は今や日本一だ。霊を成仏させることに関しては俺や美神さんなんて足元にも及ばない。
 かぎを開ける。そしてもう一度ドアノブを掴んだ。軽い痺れを感じながらドアノブを捻った。
…きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ
瞬間、中から奇声と共に雑霊があふれ出てくる。ドアがはじかれ、俺も後ろに吹き飛ばされた。
「ちぃぃ!!」
俺はあまりの霊の多さに思わず文殊を投げる。
『浄』
ヴォン!
半径10メートルの霊浄結界が一気に広がる。
雑霊たちが消え去り、あたりに清涼とした空気が立ち込める。その結界の向こう側。
なぜか窓に黒いカーテンがされ多量の札の貼られたリビングの片隅。
僅かにこぼれる光の先に見えたそれは、首に、腹に、手首に、縫い目がある、幽霊…。
「自殺者の霊かよ!!あれが!!」
 それは迫り来る結界を凌ぎながら、ただ俺達の方をじっくりと見据えている。
結界は後5秒も持たない…。
おキヌちゃんが笛を奏でる。それは悲しみや優しさ、哀れみに溢れた、それでいて強烈な霊的精神支配力を持った、音。
ひゅうーーーーーぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。
音が霊波に変わっていく。
が、『それ』はまるで何事もないように、そこに居た。
結界が消える…。炸裂音と共に札がはじき飛ぶ。
「おキヌちゃん頑張れ!!」
思わず在り来たりな応援をする俺。
背中がぐっしょりと濡れてくる。暫らく忘れていたはずの絶対的な恐怖心が頭をもたげてくる。
おキヌちゃんの顔に焦燥感が見える。
俺は無意識の内に霊波刀を構えていた。左手には文殊、急いでバックからお札をありったけ出す。
悪霊はおキヌちゃんの『気』を押しのけ、じわりじわりとこちらに向かってくる。
「だめ、来ないで!!」
強烈な精神波が俺にまでその行動を抑制させる。
…まずい!!
俺の脳みそが直感する!!
まずい、こいつは何かが違うぞ!!
それでも逃げるわけにはいかない…。
そのとき俺の右方向から気配がした。意思に反してそちらに振り向く。
「死んでください、横島さん、はい」
「臣志さん!!」
臣志さんが黒いものを投げてきた。
一見、薄暗さのせいでそれが何だか分からなかった。が、木漏れ日に照らされたそれは。
「なにすんねんこのおっさん!!!!」
ぱいなっぷる…
俺は迷わずおキヌちゃんを押し倒し文殊を…。
ちゅどぉぉぉぉぉん!!!!!!


                                     つづく

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa