ザ・グレート・展開予測ショー

霧の中


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/10/ 5)

MSの林立する格納庫では、Gメンの寄せ集めのクルーが、MSの整備に余念がなかった。
「・・・・・邪魔をしているのか?・・・・・」
西条はピートから受けた嫌悪感を忘れるように大きな声を出した。
MK-Uのコックピットの前に上がった整備用のクレーンにジークの姿があったからだ。
西条は、ジークが、政樹が館長をやっている戦争博物館のMSをいじりながら、MSの操縦と整備も覚えたと聞かされていた。
「いえっ!」
ジークの元気な返事が返ってきた。
「ジーク君!政樹館長から君を宇宙に連れていってくれと頼まれたんだが、行く気はあるのか?」
「やった!」
ジークは、上体を大きく乗り出して、輝く顔を西条に向けた。
「・・・・・しかし、君の昔の家に行くなどということはできないぞ・・・・・?」
「サイド7が、カオス教の拠点になっていることぐらい知ってます。」
サイド7はジークが育ったコロニーである。
「でも・・・・父上はどうするつもりなんです・・・・・?」
ジークはクレーンを下ろしながら聞いた。
「・・・・・このまま地球に残られる。カオス教に抵抗する運動を続ける仕事を放り出すわけにはいかないとおっしゃっていた。それに、君のお母様やご兄弟のこともある・・。ヒッコリーは近いぞ、すぐに用意しろ!」
「はい!」
ジークは、西条の前で息をつくや、ブリッジに上がるエレベーターに向かって走っていった。
西条は、その元気な少年の姿を見送ってから、各MSの点検に入った。
「・・・・・・・!?」
西条は、ディアスのコックピットを覗き込んでいるピートの姿に足を止めた。
「・・・・・ピート・・・・・」
西条は好きにさせようと思った。
「・・・・・立派に父親になっている者もいれば、昔の影に捉われて逡巡している者もいるか・・・・・人は変わっていくものだとマリンは言った筈なのにな・・・・・」
ふと、西条は自分が感傷的になっているのに気づいて苦笑した。
「・・・・・人のことは笑えんか・・・・・」
と・・・・・・・。


同じ頃、霧と雲の中を手探りをするように地上に降下している巨人機があった。
アウムドラと同じガルーダタイプのスードラである。
その機体からは強力なストロボが発光されて、それに呼応するように地上で点滅する光点に向かって、スードラは降下しているのだ。
地上には、屋根の上にパラボラアンテナを装備した民家から発光信号が出ていた。
「中継ステーション確認!」
スードラのブリッジで、オペレーターが叫んだ。
その廃屋は、地球連邦軍の通信中継基地である。
サンフランシスコの近くにあるのだが、以前のサンフランシスコは、一年戦争勃発の時のコロニー落としの攻撃で甚大な被害を出し、二十世紀にあった都市のほとんどが焼失していた。
昔の市街地は、太平洋側に一部分しか残っていなかった。
今、スードラは、その市街地に近い上空を滑空していた。
犬飼少佐は、発光信号を解読しているオペレーターの手元を覗きにいった。
「・・・・・解読します。・・・・・敵、洋上へ出た場合は・・・・追撃は中止せよ。貴艇は、ケネディに戻られたし。」
「いい!」
聞いた瞬間に犬飼は怒鳴っていた。
「アウムドラには太平洋を渡らせて、ニューギニアのカオス教の新しい基地にアウムドラを討たせるつもりか?冗談ではない!せっかくの獲物をムザムザと新参者のカオス教に渡せるか!」
オペレーターが不安そうに犬飼を見上げた。
「日本のドグラ研究所へニューギニアの動きに警戒しろと言ってやれ。暗号コードは、ニュータイプ研究所のものを使えば、カオス教の連中にはニ、三日は解読できんはずだ。」
「ハッ!しかし、下の連中が送ってくれますかね?」
「全部が全部、カオス教ではない。良い結果を手に入れれば、我々はカオス教から表彰を受けることもできる・・・・・」
「ハッ!」
スードラから手書きの暗号文をいれたカプセルが射出され、赤い煙を吐いたカプセルは、通信中継、基地の民家の近くに落下していった。
そして、スードラは、民家の屋根を剥がすかのような低空をゆったりと離脱していった。
「アウムドラと接触するのも間近いっ!」
スードラの広い格納庫で、ヌルが怒鳴り散らしていた。
「そうだっ!ザックとベースジャバーの癖を合わせておかんと、命取りになるぞ!眠いのは誰でも同じだ!」
「ICPOのガルーダは、まだ捕捉できないのか?」
ヌルは、いきなり耳元で女の声がしたので、カッとなった。
マリア少尉であった。
「焦るな。霧を見てるだろ!」
「太平洋を越えたらカオス教が出てくると少佐が言っていた。」
「我々だけでMK-Uをは落とすんだ。」
ヌルは、地球連邦軍がカオス教に置かれる前に、なんとしても軍功をあげておきたかったのだ。
でなければ、軍人としてメシを食ってゆくのは怪しくなるだろう。
このスードラは、ケネディ宇宙基地で緊急発進したおかげで、カオス教とも地球連邦軍ともいえない曖昧な部隊となってアウムドラを追っているのである。
この曖昧さは、将来、軍がどのようになろうとも、軍功があれば有利な地位が手に入れられる可能性が生まれるのである。
このマリアという強化人間の実験材料が、少しはそのような世過ぎのことを考えてくれれば、パートナーとしては絶好なのだが・・・・・と思わないでもない。


「霧に関係なくダルマサンは打ち上げます。合図があるはずです。」
エミは、ブリッジであっけらかんと言った。
「ダルマサン?」
政樹は、エミを振り返った。
「シャトルの渾名です。日本語でダルマサン。」
「どういう意味だ?」
「シャトルみたいな格好を言うようですよ。」
「・・・・ああ・・・・ダールマだ。東洋の仙人の名前だよ。・・・どうして知らせてくるんだ?」
「照明弾を使います。」
「総員!監視は万全にっ!ヒッコリーの合図を見たら、敵を呼ぶことにもなる。それを忘れずに!」
その政樹の命令が終わらないうちだった。
「発光信号キャッチっ!」
そのクルーの怒声に、アウムドラは本能的にスピードを上げた。
エミは、政樹と握手をすると、ブリッジのハッチから駆け出していた。
「たいした娘や・・・・・」
政樹は苦笑して、「敵に対して監視強化っ!」と叫んでいた。
雲の中を降下するアウムドラの前方には、確かに発光信号が目撃された。
「降下します!」
「ん・・・・!地面にぶつかるなよ!」
政樹はマイクを取り、
「エミ機を戦闘にして、MK-Uと十式をヒッコリーに送り込む!関係者は、各機に乗って待機っ!」
その声を艦内放送で聞きながら西条は、あとに続くジークに向いた。
「私のMSに乗って降下するか?」
「はいっ!・・・・・?」
ジークは答えたものの、ディアスの前のクレーンから飛び降りてエミに駆け寄るピートを見た。
「すみません。ヒッコリーまでは、ピートさんのディアスに乗ります。」
「・・・・・・?」
西条は、ジークの視線を追って、そう言い出すジークの気持ちが分かった。
「よし!着いたら、すぐにシャトルのコックピットに向かうんだ。時間はないようだからな?」
「はいっ!」
ジークはピートの方に走り寄っていった。
「ディアス、借りたの?」
エミは、クラシックな飛行服に身を包んで、ディアスに乗ろうとするピートを見上げた。
「ああ、やってみようと思っている。」
「頑張って!ピート!」
「ああ・・・・!誘導を頼む。大尉も横島君もジークもちゃんと宇宙に帰してやらなくっちゃな!」
エミは、駆け寄ってきたジークを無視して、ピートにキスをした。そして、ジークにウインクを返して、彼女の愛機、ビーチクラフト17型『コメット』に飛び乗った。
「ヒッコリーまで一緒にいいでしょ?」
「・・・・・ああ、いいよ。」
ピートは、自分を見上げているジークの視線がとても少年の率直さに溢れているのを見てかすかに動揺した。
「エミ機、発進させます!」
正面に近く巨大に脹らむ発光信号の光を見て、監視兵が言った。
「方位は分かっているな?」
「ジャイロコンパスは正確なワケ。」
エミの言葉は冷静だった。
政樹は、ピートとその後方に立つジークの姿が映っているモニターのスイッチを入れた。
「いよいよだ・・・・・ジーク!」
「はい・・・・父上、母上たちを頼みます!」
「お前に言われんでも分かっとる!ピート、ジークを怪我させたら承知せんぞ!」
「了解!」
答えつつ政樹は、モニターを西条に切り替えて、
「大尉、ジークを頼みます。」
「・・・・ああ、父親代わりの経験も良いものだと思っている。胸がときめく・・・・」
西条は笑ってみせた。
政樹は因果なものだと思っていた。かつて敵とした男に子供を委ねて、しかも、その男の言葉に安心をする現在の自分の立場をである。
「ありがとう。」
政樹は、次の発光信号が打ち上がるのを待って、前方を見た。

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