ザ・グレート・展開予測ショー

ピート、再び(後)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 9/25)

西条の十式は、アウムドラの背中から、機体を滑らせるようにして、後部のハッチに降り立って、デッキに降りて来た。
その作業は、見ているほどに簡単ではなかった。
政樹たちの方が早くMSデッキに着いていた。
「横島忠夫君や。MK-Uのパイロットをやっとる。」
政樹は横島を紹介した。
「ピエトロ・ド・ブラドー大尉?」
「ああ、そうだよ。あ・・・・僕のことはピートでいいよ。」
「はあ・・・・・。(美形か・・・・・・・)」
「作業、大変そうだね。」
「もう慣れたッス。」
そう言いきる横島をピートは可愛くないと思った。
「MK-Uとディアス・・・・・。ICPOで開発したものや・・・・・」
「僕らを助けてくれた方のは?」
「十式ッス。これもICPOのものです。MK-Uをベースしてるみたいですけど、見かけだけです。ジャスティスにしか使えません。」
横島は仕掛けてみた。
この言葉でどのような反応があるのか?それを見たかったのだ。
政樹は、ギクッとして横島を見、ピートを見た。
「ジャスティス・・・・・!?」
ジークが、弾けるように言って十式の方を見た。その時、十式のコックピットからは、クレーンが降り始めていた。
「・・・・・・・」
ピートは、唇を噛みしめて、そのクレーン台の上に立つ赤い服の長髪を見つめているだけだった。
「ジャスティスって、あの赤い閃光・・・・・?本当ですか?」
ジークは誰に聞いたというのではない。
言わずにはいられなかったのだ。
横島は一歩下がって、ピエトロ・ド・ブラドーなる人物が、西条大尉に示している態度を観察した。
そしてピートの反応から、西条大尉がジャスティスであるとわかった。
そうでなければ、あんなにも硬直はしない。
本当の驚きがあるから、息も止めているのだと思うのだ。
ピートは、クレーンから飛び降りた男の身のこなしを覚えていた。
「・・・・・なぜだ・・・・・?」
ピートは、激することなく、近づく男の姿を見つめていた。
その歩き方は、美しかった。
「・・・・ジャスティス・・・・」
ピートは、口の中で言った。
憎悪は湧かなかった。
「紹介しよう。ICPOの西条大尉や。」
「宇宙からいらっしゃった?」
「そう・・・・・」
西条が答えた。
「ピエトロ・ど・ブラドーです。」
ピートが言った。
「こちらが、息子のジークです。ピートが連れてきてくれました。」
「ああ・・・・!ジーク君。君のことはお父様から聞いた。よく無事で・・・・・。さすが、良い先輩を持たれた・・・・・」
西条は言った。
「ありがとうございます。MSをあのように扱うとは、さすが・・・・」
「なに、MSの性能が良くなっている。腕は、二の次さ。」
西条は言った。
ピートと西条は、握手をしなかった。
ジークもまた、大人たちの気分に押されて、口を噤んだままだった。
それは、横島が待っていた光景とは違い、面白くなかった。


アウムドラのMSデッキでは、終夜マシーンの整備が続けられていた。
ピートが合流したからといって、事態は好転などはしない。
クレーン車の一台に飛び乗ったジークは、MK-Uのコックピットに上がっていった。
「へぇっ、これが全天視界モニターか・・・・!」
「ん?」
横島は、その声に気づいてシートの陰から顔を上げた。
「あ・・・・横島さん。」
横島は、コックピットから外に出たコードをまとめながら外に出て、
「随分若いおやじさんだな?」
「義理の父ですから。僕、孤児だったんです」
「ああ・・・・でも、義理でもいる方がいいじゃねえか。今の時代では珍しくないしな」
横島は、知った風に言った。
「まあね・・・・そう思ってます。」
横島は、コードの束をコックピットから外しながら、
「お前、ピートさんと親しいのか?」
「一年戦争では、木馬でずっと一緒でした。」
「へえー。」
ジークはコックピットからクレーン車に乗り移り、外したコードを横島から受け取った。
「僕らの憧れだったんですがね。最近のピートさんは別人です。」
「そうだよな。あれでニュータイプだったのか?」
「ニュータイプって何です?ピートさんを見ている限りニュータイプなんて話は、ナンセンスでしょ?それより、西条大尉は本当にジャスティスなんですか?」
「本当だよ。けど、本人はそう言われるのは嫌だってさ。・・・・・私は、現在は西条大尉であるってな。」
横島は、西条の口真似をして見せた。
「ハハハハハ・・・・!」
ジークは愉快そうに笑った。
その笑いは、ドダイを見上げている西条や政樹までは届かなかった。
MSデッキ全体がウワンという騒音に満たされているからだ。
そのふたりより離れて、ピートが壁際のベンチに座っていた。
ジャスティスに会ったショックが、まだまだ整理されていなかった。
だから動けないのだ。
『なぜ、ジャスティスは地球にいるんだ?』
ピートは、夜の闇を窓越しに見つめた。
会ってからこれまで、個人的に話をする時間などは一切なかった。
アウムドラは、なんとしても西海岸まで辿り着いて、西条と横島と十式とMK-Uを宇宙に打ち出さなければならないという予定があった。
Gメンの地上中継局との交信、時間合わせ、追撃してくるであろうスードラの情報、北米全体の防衛網の動きのチェックだけでブリッジは忙しかった。
ただ、ピートが合流したことで、北米の地球連邦軍の動きの全体的状況がわかったことでアウムドラのブリッジに多少の余裕が生まれていた。
「北米の地球連邦軍が薄くなっていることは事実だ。シャイアンでは、その理由は知らされなかったけど・・・・・」
そのピートの証言を信じて、アウムドラは、より防衛網の薄いところを縫うように飛行していた。
「十式は、ドダイ改との相性がいい。調整は万全だ。」
「ご苦労です。パイロットは、少し休ませていい時間が来たようですが?」
「そうだな・・・・・」
ピートは、そんな西条と政樹を見守った。
『ジャスティス・・・・・ねぜ地球に戻ってきた?』
ピートの口の中の言葉だ。
「ヒッコリーでは、間違いなくGメンの支援があるのだな?」
「大丈夫です。アウムドラも天測と目測で何とかなるものです。」
「そうか・・・・・」
西条は、政樹の肩を叩いてからピートの方に歩んできた。
『来る・・・・』
西条の後ろで、政樹がブリッジの方に行くのが見えた。
ピートは立ち止まった西条を見た。
笑おうと思ったが、できなかった。
「気持ちの整理はついたかね・・・・?」
意地の悪い言い方だった。
「なぜ地球圏に戻ってきたのです?」
西条の目が笑ったようだ。
「・・・・・君を笑いに来た。」
「・・・・・!」
ピートは立った。
「そう言えば、君の気がすむのだろう?」
「・・・・・好きで、こうなったのではない。それは、あなたにだってわかるはずだ。」
西条は、ピートの横顔が苦痛に歪んでいるのを見た。
「・・・・・しかし、同情が欲しいわけでもないのだろう?ならば、ジーク君の期待にも応えるピエトロ・ド・ブラドーであって欲しい。それが、私に言える最大限の言葉だ。」
「なぜ、地球圏に戻ってきた!?」
「マリンの魂は、地球圏に漂っている。アステロイド・ベルトにはいないと思った。」
「マリン・・・・・」
ピートは、忘れかけていた名前を思い出していた。
勿論、ジャスティスと会った瞬間にマリンのイメージが絶え間なく襲う幻覚に似たものを見てはいた。
が、それを拒否していたのだ。
それが、遂にジャスティスの言葉に乗って現れたのだ。
ピートとジャスティスの間の空間を埋めたと言っていい。
「自分の殻に閉じこもっているのは、地球連邦政府に、いや、カオス教に手を貸すことになる。」
ジャスティスは、飛躍して現実的なことを言った。
「宇宙にいなければ、できない相談だ!」
「信じないな。その言葉・・・・・。宇宙に出たい自分を拒否しつづける生活をしていたのだろう?」
ピートは、いけないかと言おうとした。が、喉が乾いていた。
「籠の中の鳥は鑑賞される道具でしかないのだよ。」
ジャスティスは、言い捨てて、ピートを離れた。
「自分は何でも正しいと思っているのか!」
「・・・・・・・」
ジャスティスは肩をすくませてみせた。
それだけだった。
『何で帰って来た?』
またもピートは、自問した。ジャスティスの言葉を聞いていなかったに等しい。

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