ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(57)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 9/22)

『連絡・します。ミス・小笠原と加奈江・七度目の・乱戦状態に・突入』
「わかったわ。魔鈴と一緒に、加奈江が高空に逃げないように牽制して!雪之丞は!?」
『高速・移動中の・二人を・追って・います。シロ・タマモの・両者は・使い魔と・戦闘中・です』

 ―――加奈江とエミが、夜空を飛び来る光を目にする数分前。
 結界の要となっている唐巣と共に、霊力を放射して結界を支えながら、令子達は上空にいるマリアと連絡を取っていた。
「やっぱり、シロとタマモが邪魔されてるのね。横島くん、タイガーの精神波をもう少し強化できない!?」
「も・・・・・・もう無理っス!」
 タマモ達の方に行っている使い魔を封じるために、ネクロマンサーの笛の霊波を増幅しているタイガーを、何とか強化しようと横島達三人の方を見るが、その令子に対して、横島は首を横に振った。
「スンマセン!これ以上強い精神波は―――ワッシの理性が、利きませんケエ!」
 横島のそばで、キヌの背後についてネクロマンサーの笛の威力を増大させているタイガーが、苦しそうに言う。それではキヌの方はどうか、と見ると、彼女の方もそろそろ限界が来ているのか、笛を吹こうと力むたびに、まだ安定していない霊体が微妙にブレているのがいちいち霊視せずとも肉眼で確認できた。
「まずいわね・・・・・・西条さん、エミのドーピングがそろそろ切れる頃だわ」
「・・・・・・そうだな。雪之丞君もバテ始める頃だろうし、タマモ君とシロ君は動けない。魔鈴君とマリアを地上に向かわせると、高空に逃げられるかも知れないし・・・・・・」
 令子に判断を求められて、西条もじっと考え込む。
 状況はすでに長期戦と化しており、一時撤退させるには、エミ達が遠くに行き過ぎてしまっている。次第に手詰まりになっていき、焦りが見えてくるこの状況の中、唐巣だけが相変わらず、黙々と結界に力を注いでいた。
(結界は安定しているから、令子ちゃんを行かせても、僕でフォローは出来る・・・・・・が、生身で行かせるのは危険だし・・・・・・仕方ない)
「少し大げさな気もするが・・・・・・仕方ない。横島君、まだ文珠は出せるね?」
「え?あ、ハイ」
 不意に西条に聞かれて、一瞬きょとんとするが、タイガーに持たせようと用意していた文珠をすぐに見せる。すると、西条は―――ものすごーく不本意な顔で令子と横島を交互に見てから、ため息と共に言った。
「不本意だが・・・・・・令子ちゃん。横島君と合体して、エミ君達の方に援護に行ってくれないか。本当に、ものすごーく不本意なんだがね」
「な・・・・・・お前なあ!こんな時まで嫌味言う事ねーだろーが!!」
 本ッ当に不本意だと言った顔で言う西条に横島が食って掛かるのを見て、令子が苦笑する。
 令子に「お兄ちゃん」と慕われ、自分の方も彼女の事を妹のように可愛がり―――そして、妹ではなく一人の女性としても彼女に好意を持っている西条としては、たとえ仕事上の事であっても横島と令子を組ませるのは非常に不本意なのだ。
「ちくしょー!いつかその嫌みったらしい顔に、吠え面かかせてやっからなー!!」
「横島くんも落ち着きなさいよ。ま、私も、エミの救援程度にあれをするのは勿体ないなと思うけど、あの色ボケ女に恩を売っとくのも面白そうだし・・・・・・って、何笑ってるのよ横島くん!?」
「あ・・・・・・いえいえ。何でもないっス」
 先ほどまで、散々心配している素振りを無意識に見せておきながら、今更のように助けに行く理由をわざと恩着せがましく言うのが、やはり令子である。その不器用さに苦笑しているところを見咎められ、照れ隠しの鉄拳を食らう前に、横島は慌てて首を横に振ると、文珠を二つ作り出した。
 フヒュッ、と、手の中から浮き上がるように出て来た二粒の光の玉には、それぞれ、『合』と『体』の文字が現れている。
「それじゃ、行きますよ美神さ―――んっ!?」
 そして、横島と令子がそれぞれ意識を集中し、文珠の力を使ってお互いの霊力を増幅・融合しようとしたその時。
 自分達がやって来た方角から、パトカーが一台、ものすごいスピードで走ってくるのを見て、ふと、横島達は動きを止めた。
「―――ママ!?」
 突っ込んでくるような勢いでやって来たかと思うと、急ブレーキをかけて停まったそのパトカーの助手席に座っているのが美智恵であるのを見て、令子が声を上げて駆け寄る。
 その声に、これまでピクリともせずにひたすら前方を見て結界に力を注いでいた唐巣が、わずかに身じろぎした。
「ママ、―――ピートは!?ピートは見つかっ・・・・・・―――ッ!?」
 ピートが一体どうなったのか、果たして、あの館で見つかったのかどうか聞こうと美智恵に駆け寄って―――そして、尋ねようとした令子の言葉は、途中で途切れた。

 ―――バンッ!!

 後部座席の扉が、内側から強風に煽られたような激しい音を立てて、千切れそうなほど大きく開く。
 その音につられて、後部座席から出てくるものを、見ようとした直後。
 令子達は―――いや、その場にいた全員が一瞬、全くの無感覚に陥った。
 強烈な突風を浴びたその瞬間や、深い水の中に飛び込んだ直後に感じるものとよく似た―――全身の皮膚が石膏で固まったような、何も感じられなくなる一瞬。思考までもが、考える事を放棄する。
 ―――だから、後部座席から飛び出てきた「それ」が一体何なのか、令子達は一瞬、わからなかった。
 「それ」から感じるあらゆる圧力があまりに強烈過ぎて、何も感じられなくなっていた一瞬が過ぎ去った後、次に感じたのは―――脅威。
 ―――脅威、恐怖、驚愕と、混乱を誘う感情ばかりが次々に誘い出されてきて―――ようやく落ち着いた思考が戻って来た時、「それ」はもう、遠い空へと飛び去っていた。
「・・・・・・ピ・・・・・・」
 遠い空―――眼下に広がる森の上空へと飛び去っていった「それ」を、呆然と見つめて、令子が口を開く。
「ピート・・・・・・?」
 半疑問形の語調で言葉を紡ぐ令子の声は、わずかに掠れていた。

 月明かりに照らされた下では、常よりもさらに色を失って見える白い顔。
 背中で波打つ長い金髪。
 闇を紡ぎ出してまとったような、黒いコートと三つ揃え。

 薄暗い月明かりの下で見ても、はっきりと印象に残る端麗な容貌は、ピートに間違いない。
 あれはピートだ。あれは、ピートの姿をしていた。
 しかし、この自分さえをも威圧した、あの異様なほど鬼気迫った雰囲気は、一体―――
 そんな事を考えながら半ば無意識に二の腕をさすって、令子は、自分が鳥肌を立てているという事に気づいた。
「・・・・・・後は、彼に任せるしかないわ。・・・・・・自分で、決着を付ける、って」
 呆然と立ち尽くす一同の中、まだいつものペースを保っていた美智恵は、令子に近づき、安心させるようにその肩をそっと抱くと、静かな優しい声でそう囁いた。
 ―――その声も少し掠れていたが、その声を聞いて、やっと我に返ったように令子は母の方へと視線を戻した。

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