ザ・グレート・展開予測ショー

ピート、再び(前)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 9/20)

アウムドラは、低空を飛んでいた。
勿論、索敵の網にかからないためである。
人里を離れているといっても安心はできなかった。
目撃者の通報が、カオス教なり地球連邦軍に届いていることも考えられた。
いつ発見されて、撃墜されるかもしれなかった。
そのために目の良い者が、ブリッジの四方に立ち、天窓からも監視を続けていた。
「スピードは上がらないのか?鬼道館長?」
西条が入ってきた。
「何か感じるんですか?西条大尉。」
「気にし過ぎかもしれんが、北米は危険な地帯だ。」
「気休めに見ますか?」
と、政樹は、傍らからフロッピーを出して西条に渡した。
「・・・・・・・?」
「北米のあらゆる軍事施設が載っとります。」
西条は、それを傍らのウインドー(モニター)にインプットしてみながら、
「ニュータイプ研究所からあのMAが出たということだな?」
「その部隊が、スードラで追ってくることは十分に考えられますね。」
「西海岸に辿り着くまでには、振り切りませんと、ヒッコリー、我々を支援してくれる部隊のコードネームですが、ヒッコリーの連中を苦しめることになります。」
「ということは、なるべく早く敵に捕捉してもらってそれを我々が撃滅しろということなのか?」
「出来れば・・・・・ね?」
「やれやれ・・・・・・」
西条は、政樹が、あまりに豪胆なことを言うので苦笑した。
が、それは西条の政樹に対する信頼の証でもあった。
ケネディを出てからは、政樹は西条の件については口に出さなかった。デリケートなセンスを持った男なのだ。
それが、西条の政樹への好感となって現れていた。
「鬼道館長は、お子さんは?」
西条は、出て来ない敵の心配などはしても仕方がないと、ウインドーを消した。
「え・・・・?養子が、三人いますが・・・・・」
「それは賑やかでいい。」
「いいですね、子供は・・・・・西条大尉は、ご結婚は?」
「できる身分ではないよ・・・・・」
その西条の答えに政樹は、そうか、と思いついた。
「女性に対して注文が多いだけやないんですか?」
「いやいや・・・・・」
西条は、まずい話題を出したものだと後悔した。
「女房のお腹の中にもひとりいるんですがね・・・・・会えるかどうか・・・・・」
「・・・・・・・?」
西条は、その言葉に政樹の覚悟を見る思いがした。
「ご家族・・・・ケネディですか?」
「まさか・・・・・危険ですから、作戦が始まる前に逃がしました・・・・・」
政樹は、前方の変化のない景色を見たまま言った。
「ピエトロ・ド・ブラドーのところに・・・・・」
「・・・・・・・・」
西条は、出るべき時に出た男の名前に、頷いてみせた。
「・・・・・気になりませんか?ピートのこと・・・・・」
政樹は、操縦の監視を若いGメンのクルーに任せて、西条の座るシートに向かった。
「・・・・気にはなるが、地球連邦軍の軍報でもピート君の異動を読んだことがない。」
「ずっとシャイアンです。動いてません。」
「・・・・・やはり・・・・・」
「それが地球連邦軍のやり方です。そのことなかれ主義をカオス教につかれたんやと思います。」
「なるほど・・・・・」
西条は、地球連邦政府が怠惰に陥っているひとつの結果を知らされた思いがした。
「でなければ、地球連邦政府は、もっと本気でコロニーへの総移民を考えましたよ。そんな勇気がないから、僕らを地球にしばりつけ、自分達も地球にしがみつく。知ってます?アフリカ大陸は、海岸線以外は、まったく砂漠化してしまっているのを?」
「観測写真では見たが・・・・・」
「ここもそうです。絶滅した種は、この五十年だけでも三百種です。アメリカ合衆国の州の鳥といわれているものも二十種類が絶滅してるんです。」
「・・・・・生理的には良く分からないが、深刻であることは分かる。」
「鯨、知っていますね?」
「ああ・・・・・」
「捕鯨などやっていないのにシロナガスなど絶滅です。海洋汚染が、巨大な生物の餌になるプランクトンを殺しているのです。」
「人は、宇宙に住んで、種の回復をまたなければならないということで・・・・?」
西条は、政樹の生真面目を改めて思い知らされた。


アウムドラと同じガルーダ・タイプのスードラも浮遊していた。
アウムドラ追撃のためである。
その作戦参謀に、犬飼少佐が、カオス教の直轄部隊から派遣されていた。
ケネディ周辺に散在する地球連邦軍から、MSを調達して、スードラに搬入しての追撃である。
無論、その中核には、ニュータイプ研究所から発した、マリア少尉以下の生き残ったMS隊も組みいれられていた。
「修理は最低限度でいい!いつでも出撃できるようにしておけ!」
広大なスードラ格納庫には、ニュータイプ研究所から発したヌル大尉のザックと一機のベースジャバーとマリアの可変MS、ギャップランが収まっていた。
それ以外は、新規に召集されたマシーンであった。
その雑多なマシーンを整備しながらの追撃である。
犬飼少佐は、地球連邦軍がカオス教に牛耳られるようになってきた現在、具体的な軍功をあげなければ、一生冷や飯食いの軍人生活を続けなければなるまいと思っていた。
そんな時に、この突発的な作戦を実行することを命じられて、内心、しめたと思ったものである。
平和時の軍人などは、飾りにもならない、というのが信条である。
ことに一年戦争での軍功もある犬飼にとっては、次の地位を獲得する絶好のチャンスであった。
寄せ集め将兵達に怒鳴り散らした犬飼は、スードラのブリッジに上がるべく、MSデッキのエレベーターに向かった。
「少佐!犬飼少佐!」
犬飼は振り向き、声の方を見上げた。
ORX05ギャップランのコックピットにつけたクレーンから、マリアが降りてくるところだった。
犬飼は、かすかに嫌な顔をして、マリアを待った。
嫌いなタイプの女性ではなかったが、パイロットとしては若すぎるという嫌悪感が本能的にあった。
『強化人間だと・・・・?』
そういうことである。
クレーンが降り切らないうちに、マリアの小さい体が犬飼の前に飛び降りた。
「少佐のおかげだ。こうしてギャップランの修理もできるのは・・・・・」
こちらの事情とは関係がなく、マリアは上気していた。
その若さ溢れる美しさに、犬飼は一瞬目を見張った。
「何か?」
「少佐!私は、何としてもあの者たちを倒したいのじゃ!」
「あの者たち?」
「ケネディで、私に襲いかかった男たちのことじゃ。」
「・・・・・当たり前だ。そのためにスードラを飛ばしている。」
「・・・・・それならいいのだ。いや、その礼が言いたくてな・・・・・」
犬飼は呆れていた。
言われるまでもないことだ。
『平衡感覚というか、一般的な情操感覚が狂っているのではないのか?』
犬飼は、そう思った。
「わかった。君の働きを期待する。」
犬飼は、マリアの脇をすり抜けようとしたが、マリアは、その犬飼の手をとって、
「・・・・・耐えられないのじゃ。私、あの者たちが空を落とすのはっ・・・・・!」
「空を落とす・・・・・?」
「そうであろう?ICPOは、コロニーを落として地球の人々を根絶やすつもりなのじゃ。あれはコロニーが落ちるのではない!空が落ちてくる景色じゃ・・・・・」
犬飼は、マリアの瞳の奥が恐怖の色を宿しているのを見た。
「あれは、空が落ちてくる景色なのじゃ・・・・あんな・・・・あんな景色は・・・・」
「コロニー落としを見ているのか?」
「・・・・壁が、重いものが、天を割って落ちてきたのじゃ!」
「わ、わかった。少尉・・・・・平静でないと戦いは勝てんぞ。コロニー落としを阻止することもな・・・・・」
「了解だ・・・・・・!」
犬飼は、マリアの手を振りほどこうとするが、マリアの手は、犬飼の腕に食い込んだように離れなかった。
「私は、今でも毎晩、空の落ちてくる夢を見る。・・・・・分かるか?この気持ち!」
「・・・・・わ、わからんでもないが・・・・・」
「やられる前にやらなければ、空が落ちてくるのじゃぞ!」
「・・・・そうだ。そのために君にパイロットになってもらったのだ。ヌル大尉っ!マリア少尉を!」
その犬飼の声に、ザックの足下に潜り込んでいたヌルが慌てて飛び出してきた。
「マリア、怖くはない。すぐに怖くなくなる。」
犬飼は、そう言ってやった。
「間違いないのじゃな?」
「そうだ。怖ければ、一緒に寝てもやる。その方が落ちつくか?」
「そ・・・・・それは嫌じゃ!」
マリアが思わず後ずさった。その目は明らかに恐怖で怯えきっている。
「・・・・・そこまで嫌がらんでも・・・・・」
「いや・・・・・それはさすがに・・・・・」
マリアの肩を抱いたヌルが、ちょっと口ごもった。
「ん・・・・・そうか。まあいい、彼女には優しくしてやってくれ。少尉は大切なパイロットだからな。」
「はっ!」
犬飼は、ふたりを置いてエレベーターに乗った。
振り返ってふたりを見ると、マリアの体が、ヌルの中にスッポリと包まれているように見えた。
ドアが閉じた。
「ニュータイプ研究所っていうのはウソではないのか?人間をいじり回すだけだと思えるが・・・・・・・」
犬飼は、嘆息した。

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