ザ・グレート・展開予測ショー

ピートの決意(後)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 9/15)

「・・・・・でも、どうやって・・・・・?」
「ジークを預けさせてもらえれば、後は男同士の問題だ。冥子さんは考えちゃいけない。便りがない時はいい知らせだと思って・・・・・」
「本気なのね?」
ジークは、冥子を遮って鈴女と童子の方を向いた。
「母上を頼む。な・・・・!僕はピートさんを案内する。」
「・・・・じゃあ・・・・」
ピートは、監視の男の姿がないことを確認しながら、鈴女がスーツケースを持ち、冥子が童子の背中を押すのを見送った。
「それじゃあ、冥子さん。」
「・・・・・頼むわね・・・・・」
「ん・・・・・ジーク、トイレにつき合うか?」
「すいません。おじさん。・・・・・母上、すぐ行きます。キップ持ってるから・・・」
と、ジークは、ひどく普通に冥子に言った。
演技とは思えなかった。
ピートとジークは、国際線に乗ろうとする人々の流れとは逆にゆっくりと歩いた。
『監視の男はどうした?』
ピートは、輸送機の方に降りられる出入口のドアに手をかけながら最後の確認をした。
周りに人の目のないのを確かめたうえで、作業員用のドアを開ける。
目の前の輸送機のエンジン音がドッと入ってきた。
ジークを先に外に出して、階段を下りた。
「いいか、一気にあの輸送機のタラップに駆け上がるんだ。」
「は、はいっ・・・・・!」
ピートの言葉にジークは、背筋をビクッと震わせてから、足早に階段を降りた。
「・・・・・!」
ピートは、輸送機の足下には、タラップを外すためのクルーがいるだけなのを見て、胸のポケットから紙の束を取り出して差し出した。
そして、ジークを追い越すようにして走り出した。
タラップを移動させようとしていたメカニックマンが、不審そうにピートを見た。
「実は・・・・・!」
ピートが叫んだが、始動し始めたエンジンの音にその男が、耳に手をやった。
旅客機の搭乗口では、冥子たちがスチュワーデスの出迎えを受けて、旅客機のキャビンに入っていった。
輸送機のタラップで、メカニックマンが倒れた。
ピートの不意打ちをみぞおちに食らったのである。ピートはジークを押し上げるようにして、タラップを駆け上がると、操縦席に飛び込んでいた。
そんな椿事が起こると思ってもいなかったパイロットは、ドアを閉じていなかったのだ。
と、言うよりも、閉じる習慣がなかった。
ピートは、ベルトの背中に押し込んでいた拳銃を抜くと、パイロットの後頭部を殴りつけていた。
「うっ!」
出発間際の忙しい瞬間で、パイロットの防衛本能が働く間がなかった。
ジークは、ピートが拳銃を持っているのを知って、ピートは初めからこの計画があって空港に来たのだと知った。
「動くな!いや、立て!」
ピートは、コ・パイに拳銃を向けた。
「貴様っ!」
ピートは、コ・パイの横面を拳銃の台尻で殴りつけていた。が、そう簡単にふたりの男を制することはできなかった。
コ・パイは、シートから体をずらせながらも、反撃をしようとしていた。
ピートは、恫喝のための拳銃を一発射ち、コ・パイがひるんだ隙にもう一度殴っていた。
ジークが見てもその動きは並みのものではなかった。
「やっぱり、ピートだ・・・・!」
「急いでっ!」
ピートは、ジークに手伝えという合図をした。
「拳銃を持っていろ!目を覚ましたら射つんだ!」
「は、はいっ!」
ジークは、ハッチのところに背中を当てて、ピートがパイロットシートに座るのを見た。
ピートの手は素早く輸送機を発進させる挙動をとった。それは、神技に見えた。
「行くぞっ!」
輸送機は、タクシングを始めた。
ピートは、スロットルを引き、エンジンを上昇させた。
「ハッチを閉じろっ!」
ジークは、慌ててハッチを閉じにいった。空港ビルが後方に流れていった。
ピートは、レシーバーの無線を切ると、
「離陸するぞ!」
「ここは、滑走路じゃないっ!」
「距離はある。冥子さんたちの旅客機の邪魔はしたくないっ!」
ピートは、輸送機をダッシュさせた。
同時に輸送機は、地面から震動を消して、浮上していた。
「こ、こいつ!」
コックピットの方で、パイロットの声がしたが、
「手を出すと、飛行機を落とす!」
ピートが叫んでいた。
ジークは拳銃を手にして、コックピットのハッチにとりついて、
「抵抗するのならば、射つ!」
パイロットに拳銃を向けたが、その銃口は震えていた。
旅客機のキャビンでは、冥子親子が座っていた。
「離陸をしばらくお待ち下さい・・・・軍用機の緊急発進がありますので・・・・・」
三人が顔を見合わせた。
「こんな空港で、軍用機があるのか?」
童子だ。
冥子は、なぜか不安であった。
空港ビルの方を覗き、前方のスチュワーデスを見た。
そのスチュワーデスは、コックピットの通話を受けるために受話器を持ったままである。
が、いかにも業務用という笑顔を絶やさないでいた。
「離陸します。お待たせいたしました」
冥子はホッとした。
『ピートは、動こうとしている。上手にやってくれるわ・・・・』
そう思って目を閉じてみた。お腹の赤ちゃんが動いたような気がした。
「シートベルトをご確認下さい。離陸いたします。」
冥子は、お腹の下のベルトを見ながら、お腹をさすってみた。赤ちゃんがちゃんと動くのを感じたいと思ったのだ。
「心配・・・・?」
鈴女が聞いた。
「少しね・・・・でも、少しだけ・・・・・」
鈴女の頭をなでて、冥子は窓の外を見た。景色が走り始めていた。
ピートとジークをのせた輸送機が、すでに離陸していることなどは知らなかった。


ロビーのトイレからでた監視員は、たっぷりと手を洗って気がすんでいた。
旅客の搭乗が終わり、シズカニナッタロビーを見渡して、ピートの姿がないので、ロビーを降りていった。
空港ビルの正面の駐車場には、まだピートのリムジンが人待ち顔に待っているのを見て、
「・・・・・・・?」
監視員は、もうしばらく待ってみようと思った。
この任務が終われば、午後は休暇がとれるのである。
太平洋航路の旅客機が離陸し、その前方を輸送機らしいのが雲上に出ようとしているのが見えた。
それにピートが乗っているとは、その監視員には、ちょっと思いつかなかった。


ピートは、コックピットの壁にかかっていた革のジャケットをジークに投げた。
「着ていた方がいい。」
「パイロットは、どうするんです?」
「考えていない。が、ケネディに着くまで説得はしてみるが・・・・・」
「無駄だと思いますけどね・・・・・」
「しかし、乗せておいて良かった。地球連邦軍の追撃があっても、彼らがいれば簡単に射ち落とされるようなことはないだろう?」
「ああ・・・・・!」
ジークは、さすがだと思ってコ・パイ・シートに座った。
前方に雲上が広がっていた。
ピートは、冥子一家に乗せられてしまった自分を見つめる余裕を取り戻していた。

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