ザ・グレート・展開予測ショー

ピートの決意(前)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 9/14)

アウムドラを追って追撃をしてくる一機のザックもケネディ空港の滑走路に降下していったが、それも雲に隠されて見えなくなった。
「・・・・・スードラは、無傷で残してしまった・・・・・」
そうは言うものの、後悔のしようがなかった。
西条と横島を回収できただけでもよしとしなければならない。
「大尉・・・・・援護、ありがとうございました・・・・」
デッキで横島がヘルメットを取りながら小さく言った。
「君こそよくやってくれた・・・・」
「シロ・・・・・死んじまいましたね・・・・・」
「・・・・いいパイロットだったが・・・・これが戦争だよ。横島君・・・・・」
西条は、ヘルメットを脱ぐとやさしい笑顔を横島に見せた。
「堪んないッスね・・・・・」
「そうだな・・・・・」
「後で・・・・シロの墓立ててやりたいんですが、付き合ってもらえますか?」
「ああ・・・・・もちろんだ」


アーギャマは、衛星軌道上の警戒にあたるカオス教の艦艇との戦闘を排除しながら、軌道修正を行い、タマモの操縦するシャトルとランデブーをした。
タマモは、アーギャマと合流しても尚泣き続けていた。
「そう・・・・・シロちゃんが・・・・・・」
ブリッジで、美智恵は泣きじゃくるタマモを強く抱きしめながら、涙で濡れた髪を優しく掻き揚げてやった。
「そんな・・・・・・・シロちゃんが・・・・・・」
おキヌは、口に手を当てたままショックでその場に座り込んでしまった。
「・・・・・・・」
小竜姫も黙って目を伏せることしかできなかった。
「シロちゃんの死を無駄にはできないわ!皆、一刻も早くこの戦争を終結させるわよ!」
美智恵のその力の篭った号令に、アーギャマのクルー達は皆一様に頷いた。
「シロ・・・・・エック・・・ヒック・・・・」
「・・・・フゥ・・・・」
タマモの復帰にはもう少し時間が必要だろうと、美智恵は軽くため息をついた。
そして、この様子を陰で見ていた女がいた。
メドーサである。
「ったく。こんな甘ちゃん連中には付き合ってらんないよ。戦争で人が死ぬなんて当然のことじゃないか。アホらしったらありゃしないよ。・・・・・シャワーでも浴びてこようかね。」
メドーサは、バスルームに向かいながら何気に呟いてみた。
「どっかにあたしを必要としてくれる男はいないもんかね・・・・」



ピートの屋敷に一番近い空港までは五十キロとない。
執事が、運転するリムジンの中でも、ピートと冥子は、口をきくことはなかった。
ふたりが言葉の糸口を捜そうとしなかったからだ。
ジークも昨夜喋ってしまって気が済んだのだろう。ムッとして外を見ているだけだった。
ピートに絶望しているのだ。
童子と鈴女も非難の目つきをピートに向けるのはやめていた。
リムジンは、三十分もしないで空港に着いた。
その空港では、太平洋航路の便は三日に一便だけあった。そのチケットを手に入れることができたのである。
たまたま空いていたのか、軍が航空会社に圧力をかけたのか、ピートは知る気にはならなかった。
きわめてすみやかに手に入ったのは異常である。
そこにも地球連邦軍の監視を感じる。
滑走路の向こう側には、すぐ山がひかえているいかにも地方都市の空港である。
今は、午前の国際線の発着時だけに見せる賑わいがあった。
ピートたちがロビーを上がっていく時、ピートは尾行の者がいるのに気づいていた。
これも、いつものことであった。
相手も慣れた仕事という感じで、あからさまに接触をする風は見せない。
「何もできなかったけど、何か困ったことがあったらいつでも連絡してほしい。」
ピートは、ようやく冥子に笑顔を見せた。
「ありがとう。ピート・・・・」
冥子の言葉をジークが遮った。
「あなたにはもう面倒はかけませんよ。僕らは僕らでやっていけますから・・・・」
「君の考えは分かっている。」
ピートは、苦笑するしかなかった。
「今は君のお母さんと話をしている・・・・元気な子を・・・・・冥子さん・・・・・」
「心配なく・・・でもね。問題は、この子が生まれてから後のことね・・・・・強い子に育てなくちゃ・・・・・」
冥子のその言葉には、刺があった。
冥子が、ぴーとの動かないことに不満を抱いていることは明らかだった。
「そろそろ時間よ。母さん、向こうの席に移りましょ。」
鈴女が、ピートを見上げて、冥子の手をとった。
童子がスーツケースを持ち上げた。
「これ以上、僕に何をしろって言うんだ・・・・日本行きの切符を取るのだって・・・」
ピートは、ウソを言おうとしていた。
「・・・・今だって監視されてる。何かする前に、捕らえられるのがオチだ。」
「ピート・・・大尉。子供に戻ったって、何も手に入れられないということだけは思い出して・・・・・」
そう言って、冥子は鈴女に手を引かれるようにしてピートに背中を向けた。
ピートは追うのを止めた。
その脇をジークがスーツケースを持って通り過ぎた。
ピートはロビーを見渡した。
別に監視をしている軍人を見つけようというのではない。
冥子の言った『子供戻り』という言葉が胸に刺さったのだ。
自分がいくじがなくなっているのは承知していた。
ロビーの窓越しに、冥子たちの乗る国際線の旅客機と、左には小型の輸送機があった。
冥子たちは、搭乗口の近くの席に荷物を置いた。
ピートは、右の隅にその姿を捕らえながらも、フラリと窓際に寄った。
「・・・・・・・!?」
動いてどうなるのだろう?
そう思う。
ピートは、ロビーのガラスに額をつけて、旅客機から輸送機の方を見て言った。
「出国できればしたいのが僕だよ・・・・・」
ピートは、そう冥子に言いたかった。
輸送機は、国内用のものである。貨物の積み下ろしは終わり、警備員がハッチを閉じていた。
その輸送機の前方には、まっすぐにタキシング・ウェイが続いていた。
「・・・・・あれで、逃げるか?」
ピートは冗談を言ってみた。
ロビーから、そのパーキングにもすぐ降りられる入り口があった。
ピートは、その出入り口に近づいてノブを回してみた。開いた。
「あ・・・・・」
ピートは、人知れず笑った。
「映画やTVのようなわけにはいかないか・・・・・」
冗談を信じるようにして、落ち込む自分を引き立てようとした。
そして、冥子に最後に別れる言葉くらいは、ちゃんと言ってみたいものだと思った。
「・・・・・・・!」
ピートは、冥子たちの方に歩み始めた。
自分の中の芝居がかった想像が、多少、気を軽くしてくれた。
(いないな・・・・・?)
ピートは、その瞬間、監視の軍人がいないことにあらためて気がついた。
(確か、濃いグリーンの背広を着た男が今日の監視役のはずだが・・・・・?)
近づくピートを子供達は、硬い表情で迎えた。
「ジーク、政樹は、お義父さんはどこに居るか知ってるか?」
ピートは、喋りながら、自分が予定していたこととは全く違うことを喋っているのに気がついていた。
「知りませんよ。ケネディに戻るでしょうが、その後は・・・・・」
ジークは素っ気無く言った。
冥子が、奇妙な顔をピートに向けた。
「・・・・ケネディに行けば事情は分かるんだな・・・・?」
「ケネディだって、地球連邦軍の爆撃を受けて、もうメチャメチャかもしれません」
「しかし、Gメンの拠点なんだろ?」
「・・・・・・・」
「・・・・冥子さん・・・・・ジークを借りていいかい?」
ピートは、自分で何を言ったのか、と思った。これは、別れの言葉ではない。
ジークの目が冥子を見、冥子が、ピートを見上げて唇を震わせていた。
「なら、あたしも行くわ!」
勘のいい鈴女が、低く言った。
「なら予もいってやろう・・・・」
童子は、はしっこそうに目を左右に走らせて言った。
冥子は、二人を制して、
「ピート・・・・・!?」
「そうした方がいいだろ?冥子さん?」
「でも・・・・・」
「童子と鈴女は駄目だ。お母さんを二人で守らなくっちゃ。生まれてくる赤ちゃんだってかわいそうだ。」
ピートの言葉をジークが受けていた。
「ピートさんの言う通りだ。お前達は二本に行きな。そして赤ちゃんが生まれたら、ニューホンコンで、コロニー行きの切符を手に入れるんだ。」
「三〇八便の搭乗手続きを開始します。ご搭乗の皆様方は、搭乗口にどうぞ。」
アナウンサーの声に、周囲の人々が立ち上がり始めた。

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