ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(53)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 9/ 5)

 ―――ヨコシマ!!

(・・・・・・!!)
 魂の奥から響いてきた、自分を呼び覚ます声に、横島はハッと目を見開いた。
(・・・・・・ルシオラ!?)
 目は開いたものの、加奈江に精神を干渉されているせいで本当の感覚は戻っていないのか、辺りは真っ暗闇で、すぐそばにいる筈のキヌやタイガーの姿も声も、何もわからない。しかし、懐かしい声に呼び覚まされた横島は、ただ闇が広がるばかりの空間の中に、『彼女』の姿を求めて、四方に視線を廻らした。
(ルシオラ!?ルシオラーっ!!)
「もう。そんなに大声張り上げないでよ。私はこっちよ」
(!ルシオラ!!)
 優しい微苦笑を含んだ声が聞こえ、急いで後ろを振り向く。
 その横島の視線を受け止めたのは、淡い光に身を包み、微笑を浮かべて中空に浮かんでいるルシオラだった。
(ルシオラ・・・・・・お前・・・・・・幻覚とかじゃないよな!?)
「もう・・・・・・忘れたの?お前の魂と霊体は、半分以上私のものが混じっているのよ。さすがにいつもこうやって顔を出すわけにはいかないけれど・・・・・・お前が危険な時だもの。少しだけ出て来れたわ。まあ、お前の意識の中でしか存在出来ないんだから、ある意味では幻だけどね」
(ルシオラ・・・・・・)
 はにかむように小首を傾げて笑うその笑顔に、何故か胸が痛む。
 やはり、現実的には命を失っている者だからだろうか。ルシオラの姿はどこかおぼろげで、完全に実体化していない。ひどくリアルな立体映像を見ているような気分だった。
 気配は確かに感じるのに、触れる事は出来ない。どこまでも現実に近い姿をしているのに、何かが違う微妙な違和感があった。時折、テレビの画面にノイズが走るような感じで微妙に輪郭が歪んだり、二重にずれたりして見える。
 その姿が、彼女の儚い生をそのまま表しているようで、横島は、苦しげな、迷うような視線をルシオラに向けた。

 ―――ずっと、一緒にいたかった。
 約束をして、一緒に夕日を見て。
 ちょっと浮気心を出すとどついてくれて。
 何となく居場所が無いからと、学校の校門に立っていた彼女。
 クールなように見えて、結構ムードを意識して、一緒にいられるのが嬉しいと、満面の笑みを浮かべながら抱き着いてきて―――

 目の前にある朧な姿とわずかな蜜月の記憶が、かえって横島を苛む。
 自分は―――自分達は、ずっと一緒にいたいと思っていた。
 「みんなでずっと一緒にいられる」日常が、本当は何の保証も無いものであると言う事を、あの時、自分はまだ知らなかった。
 彼女を失って初めて、自分は、いつまでも一緒にいられると思っていた相手を失う「痛み」を感じたのだ。
 ―――ずっと、一緒にいたかった。
 その気持ちが、『永遠』を願う事とどう違うのかと、意地悪な女の声が囁く。
 ―――・・・・・・違わない、ような気がする。
 ずっとこのまま、今の日常が続けば良いと思う。
 散々憎まれ口を叩き合っている親父やお袋だって、もし彼らが明日死にでもしたらと思うと、ルシオラを失った時のあの痛みを思って、ゾッとする。
 美神さんやおキヌちゃん、エミさん、タイガー、唐巣神父・・・・・・あの西条でさえ、「本当にいなくなること」を真剣に考えると、冷や汗が出てくる。
 誰も、失いたくない。
 皆がいる日常を、このままずっと過ごしていけたら―――・・・・・・

「もう!しっかりしてよ!」
(!)
 再び、引きずり込まれようとしていた横島だが、ルシオラの声で我に返る。
 見ると、先ほどよりももっと近く―――ほとんど、唇が触れ合うか触れ合わないか、と言う至近距離にまで、ルシオラの顔が迫っていた。
「しっかりしてよ。何を迷っているの?お前は、私を惚れ込ませた男なんだから!」
(でも、ルシオラ、俺は・・・・・・)
 お前を守れなかった。
「何言ってるのよ。前に言ったでしょう?私達、恋は実らなかったけど何も失ってないわ。転生は別れじゃないのよ。また出会うための通過点なんだから」
 死なせてしまったと、暗く目を伏せる横島を、ルシオラがその身から放つ光で優しく照らす。
「だからヨコシマ、惑わされないで。目の前に塞がる悲しみに負けないで。自分が本当に求めているものを、見失わないで―――」
 姿を見せている限界が来たのか、微笑むルシオラの姿が次第に揺らいで、光と共に薄れていく。
(待ってくれルシオラ!俺は―――)
 伸ばした手は虚空を掴み、ルシオラの姿は満面の笑みを最後に見せて消える。
 ずっと、一緒にいたかった。
 一緒に生きていたかった。
 なのに、何もしてやれなくて―――
(俺は・・・・・・お前と一緒に・・・・・・)
『そうよ。ずっと一緒にいたかったんでしょう?』
 まだ闇の中にいる横島の頭に、加奈江の声が響く。
『一緒にいたかったのよ。永遠に変わらない平穏な日常が、ほしかったんでょう?』
 そうだ。
 ずっと続いていく日常の中に、彼女の姿がほしかった。ただ、それだけ。
 ずっと一緒にいて、GSの仕事を一緒にして、・・・・・・出来れば、学校にも行ったりして、それでいつかは、結婚して―――
(・・・・・・?)
 そう考えて―――自分の望んだ「日常」を思い浮かべて、横島はふと、何かを思った。
 確かに、ほしかった。
 ずっと壊れない、続いていく、皆のいる日常が。
 しかし、加奈江の言う『永遠』と、自分が望んでいる平穏な日常とは、明らかに違う気がした。
 加奈江は、全てが今のまま変わらないものが、『永遠』が欲しいと言った。
 だが、横島が加奈江に引き込まれて想像した彼の永遠は、それとは違うものだった。
 それは、平穏な日常。
 平穏で変わり映えしないように見えても、確かに変わっていく―――そんな「日常」。
 恋人や友人や皆と、一緒に笑って、騒いで、勉強して、仕事して、少しずつでも成長していって、結婚して、子供が生まれたりして―――
 少しずつ変わっていく、「日常」の、平穏な世界。
 そして、その中には年を取り、老いて死んでいく事をも肯定していく自分がいる。
 有限の時間の中で、皆と、出来る限りの時を一緒に生きて、変わっていく。
 変わっていくのだ。
 自分が望んだ永遠は、加奈江の言うものではない。
 あくまで、人間のものさしの、流れる時間の中での、移り変わる『永遠』なのだと。

 ―――転生は別れじゃないのよ。また出会うための通過点なんだから
 ―――惑わされないで。目の前に悲しみの負けないで。自分が本当に求めているものを見失わないで―――

(そうだよ・・・・・・時間が流れないと、俺達、出会えないもんな・・・・・・)

 そうよ。時間が止まっちゃ困るわよ。ねえ、パパ?

 加奈江のものとはまるで違う、悪戯っぽいくすくす笑いが自分の中から聞こえ、横島はそれににっこりと笑い返すと、今度こそ、感覚を取り戻して本当に目を開いた。

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