ザ・グレート・展開予測ショー

とある奇跡


投稿者名:NACNor
投稿日時:(97/12/10)

#長いですが、最後まで読んでくれると嬉しいです。バッドエンドでは
ありませんので。はい。


「着いたぞ」
 ルシオラは首を上げた。振動が止まる。目的地の様だ。扉がゆっくりと、開かれた。
「ここから先は歩きだ。出ろ」
 護送車を降りると、辺りは荒涼とした風景が広がっていた。シベリアと呼ばれるアジア
の一地域。細かい所在はルシオラには分からない。細い道が一本、小高い丘に向かって伸
びている。
「さ、行け」
 兵に催促されると、少し微笑んでからルシオラは歩み始めた。
 彼女はその先に何があるのか知っている。それは、ある意味では彼女自身が望んだ結果
でもある。
 アシュタロス派の一斉捕縛が行われ、臨時裁判所が開かれた。それをとり行う神魔両族
上層部にとり、ルシオラら幹部クラスの処分は最優先にされるべき事項だった。だが、
『条約』に基づいて裁判が進行したのでは、何年かかるか分からない。そんな中で、主席
検察の神族の一人・査問神がルシオラに『取り引き』を持ち掛けた。何の事はない。ルシ
オラ自身が容疑を前面的に認めることと引き換えに、他の幹部、ベスパ・パビリオや土偶
たちの罪を不問にする、というものだった。彼らにとっても取り敢えずの結果が求められ
たのだ。そして、ルシオラはそれを受け入れた。
 ルシオラの心は穏やかだった。幸せですらあった。あの男にもう一度会えた。それだけ
で充分嬉しかった。
 所詮は魔族と人間・・・そういうとらえ方も有るだろう。だが、ルシオラの心は、確実
にあの男と通じた。そう、確かな事実なのだ。
 
 私は、満足。
 ベスパ達もこれで助かる。全てはこれで終わる・・・。

 道は結構急になっていた。後ろ手にかけられた拘束手錠が重い。そして、丘を登り切る。

「・・・!」

 ルシオラは目を大きく見開いた。開けた広場。予想外の風景が目の前にあった。
「ベスパ! パビリオ! ・・・土偶羅様!」
 巨大な3つの球体。透明な封印球にとじ込められた彼女達がそこにいた。そして、多数
の兵と、ルシオラに取り引きを持ち掛けたあの神族。
「査問神・・・どういうこと!」
「お前さんのおかげで裁判も迅速に進んだ。全員有罪だ」
「・・・騙したわね!」
「お前たちは魔族なんだろう? 騙される方が悪いんだ」
「・・・クッ」
「俺は裁くのが商売だ。細かいことは気にしない事にしている。正義とか、約束とか、な」
 査問神は背後にある巨大な容器を指さした。臭気が漂って来る。
「でかいだろう? 封印溶剤。魔族でもひとたまりも無いさ・・・ま、お前らは既に魔力
を殆ど失ってはいるが。自白に免じて、お前から始めてやる」
「最低ね」
「何とでも言え!」
 査問神の蹴りがルシオラの下腹部にめり込んだ。
「ぐっ・・・! 」
 口の端から血液が零れ出す。倒れかかるが、背後から兵たちに引き上げられる。
「ははははっ、悪名高いアシュタロスの幹部もこれでは形無しだな・・・そらっ!」
 査問神は腕を降り上げた。しかし、その時背後から鈍い音が響いた。査問神は奇妙に顔
を歪め、そのまま倒れこむ。そして、その後ろには。
「ヨコシマ!」
「待たせたな! 約束通り、迎えに来たぜ!」
 横島は神兵の兜・鎧を脱ぎ捨てた。手錠を外す。爆発があちこちで発生し、煙が辺りに
充満する。ルシオラを押さえつけていた兵たちも既に伸びている。
「大丈夫か?」
「わざわざ、来てくれたの・・・」
 と、派手な音をたてて封印球がくだけ散った。美神が神通坤でたたき割ったのだ。ベス
パたちは地面に倒れこみ、起き上がりながら美神を見上げる。
「お前は・・・ポチの仲間の人間の・・・何故だ?」
「ウチのバイトがあんたらに随分と世話になった様じゃない? 一回でも仲間になった連
中を見殺しにするのは、後味悪いしね!」
 頭を押さえながら査問神が立ち上がり、叫ぶ。
「神兵たち! 何をしている? 取り押さえろ!」
 動揺して硬直していた神兵たちが一斉に動き出す。それを見て、美神が叫んだ。
「おキヌちゃん! お願い!」
「はい!」
 ネクロマンサーの笛が何処からとも鳴く響きわたる。『死者起動』の調べ。それに釣ら
れるように、あちこちの地面が盛り上がり、ゾンビの様な化け物が現れ始める。神兵たち
に襲いかかり、彼らと戦い始めた。
「・・・おまえら!」
「運が悪かったな」
 横島がにやりと笑った。
「あんた随分とここで罪人を処刑した見たいじゃないか。死んだ連中が皆出てきたぜ」
 銃声があたりに響き、難を逃れた神兵たちが次々に倒れる。西条が遠距離から援護射
撃を行っているのだ。
 ルシオラは査問神を見つめた。
「随分と、世話になったわね・・・」
 その両手が光を帯び始める。
「ヒッ」
 査問神は背後の神兵たちの間に逃げこむ。ルシオラの光がその後を追い、数十人の神
兵たちが吹き飛ばされた。査問神の叫び声が聞こえた。
「神兵たち・・・あれを使え!」
 低い作動音が響き、逃げ惑う神兵たちを押し分けて広場に巨大な戦車が乱入して来た。
高さは6メートル程もあろうか。砲塔を横島たちにむけ、動き始める。
「はははははっ! 神界最新の装備だ! かなうわけ・・・」
 がくん、と戦車が動きを止めた。キャタピラが猛烈に動くが、進めない。
「?」
「どりゃああああっ!」
 ベスパの掛け声と共に戦車はひっくり返され、煙を吹き上げる。まるで甲羅を裏返され
た亀の様でもある。滑稽な眺めだった。
「たとえ魔力が弱められても、お前らとはけた違いなんだよ! あたしらは!」
 腕を鳴らす。
「落とし前、たっぷりとつけさせてもらうよ・・・」
 それを見て、横島は口笛をならした。
「大したもんだな・・・。ルシオラ、行こう。長居は無用だ」
 ルシオラはこっくり、と頷いた。
「本当の、バカよ・・・ヨコシマ・・・」
 その目には、涙。

「こんな事をして、許されると思っているのか?!」
 査問神の声が遠くから響く。
「さあね」
 横島は文殊を発動させた。一つは「煙」、一つは「隠」だ。辺りがもう一度、煙で充満
する。横島たちは一斉に姿を消した。

「追え! 追うんだ! ・・・げほっ」
 査問神は神兵を引き連れ、駆け出そうとした。
「お待ちなさい」
「ん?」
 立ち止まる。そして、その顔が驚愕に変わる。
「しょ、しょ、しょ、小竜姫様! あなた様のような方が何故、ここにっ!?」
「あなたの今までの行動。明らかな業務の超越。またアラスカ神魔協定にも違反する残虐
な刑罰・・・あなたの任を解きます。追って沙汰があるまで、謹慎を命じます」
「く・・・」
「正義とか、約束とか。私はそういうことは結構気にするのよ。これも商売。ね?」
 小竜姫はにっこり笑った。

 彼らを乗せたトラックはシベリアの大地を疾走していた。振動に揺られながら、横島は
ルシオラの方を向く。
「危なかったな!」
「・・・」
 ルシオラの顔は何故か沈んでいる。おキヌが心配そうに除きこむ。
「大丈夫ですよ。ここまで来ればだれも追ってこれませんよ! ねぇ、横島さん?」
「そーそー!」
「そういうことじゃなくて・・・」
 ルシオラは寂しそうな微笑みを浮かべる。
「嬉しいの。本当に、嬉しい。でも、私は罪人・・・。間違い無く。特に、私は裁判で罪
を認めた。その事実は動かない。下ろして。ヨコシマ達に迷惑がかかってしまう」
 横島の顔が硬直する。
「ルシオラ・・・」
「お願い・・・」
 一瞬の後、横島は痛快そうに声を上げて笑い始めた。
「大丈夫なんだ! それについては! ルシオラ、あんたは大丈夫!」
「え?」


「・・・そういうことで・・・はい。はい。なにとぞ宜しくお願いします」
 受話器の向こうから雑音交じりの声が響く。
『了解した・・・。他ならぬあなたの要請だ。今回の戦いの最大の功労者の言葉を無視出
来る者など居ない』
「違法行為であることは重々承知しております。申し訳ありません」
『いや、私個人としても考えるところが色々とあってな・・・丁度良かった。神魔両界へ
の根回し、確かに引き受けた』
「では」
 美神美智恵は受話器を置いた。
「愉快な話・・・。令子には、本当に沢山の仲間が、素晴らしい仲間がいる・・・未来は、
心配ない、かしらね?」
 未来は一つではない。彼女らは、皆一人一人が自分の未来を築いて行くのだろう。自分
の役目も終わった。もうこれ以上彼女らにとっての『未来』を見る必要は無いだろう。帰
るべき時が来たのだ。全ては片付いた。
「なんて愉快・・・」
 母は、楽しそうに微笑んだ。



#この後「なにはともあれ」に続けてもいいかも。


今までの 賛成:3 反対:0
コメント:

[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa