ザ・グレート・展開予測ショー

霧の街より来る悪魔(6)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/ 8/23)

 ジャックリッパーからは美神たちの居場所がよく見えていた。
 向かいの10階建てビルの屋上に、彼の姿はある。
 彼は気配を絶つすべを知っていた。あたりの気配に溶け込んでしまえばいい。 
 人間の群れているところでは、その程度のことは朝飯前である。
 ジャックは焦っていた。さすがのジャックリッパーでもGS8人を相手にするのは無謀であることぐらい、十分承知している。あとは心と体が納得してくれさえすればいい。
 が。この街には人の悪意が溢れすぎている。
 悪意がどんどん吸収され、押さえが効かなくなってきた。
 「はぁ。はぁ、はぁ」
 興奮の色が隠せない。心のどこかで誰かが呟く。
 皆殺しにしちまえよ、さっさと行ってやっちまえ。
 それが自分の心なのか、誰かの心なのか。

「よかった、ショウトラのヒーリングが効いてきたみたいだ」
シロを看病していた横島が呟いた。おキヌもほっとしたのか、僅かに笑みを浮かべている。
「だめ元でやってみた甲斐がありましたね」
「まったく呪いを無効化してしまうなんてなんていい加減なわけ?横島の文殊は」
エミはあきれた顔して、腰に手を当てて、言った。
「文殊はまだまだ可能性を秘めているってことだ」
唐巣神父が感心した面持ちで言った。
使った文殊は二つ。破と呪の二文字である。呪いを無効にしてしまったわけだ。呪いさえなければヒーリングが効く。シロの意識はまだ朦朧としているが、それは血が出すぎてしまったからだろう。少し寝て起きて、たっぷり食事をとれば回復する。
もう普通の霊能力とは完全に違う路線を走っている横島の文殊である。
「しかしこれでシロのほうは一安心ね。あとはジャックリッパーを退治するだけね」
「それが一番厄介だと思うんじゃがのう」
「たしかにね。奴はとんでもなく早いし・・・」
「本当にそれだけだったか?美神令子」
「どういうことよカオス…、あ」
カオスの指摘に美神は先ほどの一件を思い返し、そしてあることを思い出した。
「気配が、なかった…、まさか」
「そう、やつはもう近くに潜んでるやも知れんってことじゃ。神聖な空間と化しとるこの教会に入り込んでくることは不可能にしても、外での待ち伏せはかのうじゃから」
「うぁ、ドクターカオスがまともな発言をしている!!!」
「槍が〜〜降るかも〜〜〜知れないわ〜〜〜〜」
「まてきさまら、老いさばらえたとは言えわしは天才錬金術師にしてヨーロッパの魔王と謳われたドクターカオスだぞ!!!なぁマリア」
「イエス・ドクター・カオス」
マリアの顔に、焦りの表情というのがあったら、きっとその顔になっているだろう…。
感情のあるロボットマリア。彼女が量産され、一躍有名になるのは199年後である。
「ア、美神さん。車からシロのドックフード取って来ます」
横島が話がまとまるのを待って、美神に言った。
「気をつけて横島君」
「美、美神さんが俺の身の心配を・・・もうこれは愛情表現と取って間違いない!!!」
ごかきぃぃ
美神の蹴りが後頭部を捕らえた。鋭いハイヒールのかかとが刺さっている。
「馬鹿な事言ってないでさっさと取ってくる」
「ファイ、美神さん」
一気に大人しくなった横島がとぼとぼと歩いていく。
「玲子ちゃん、相変わらずね」
「藤田さん」
話しかけられて振り向く美神。
「好きなんだ、彼の事」
藤田が耳元でぼそりと呟く。
「いぃっ?ちょっと、何言ってるのよ、あんな奴はただのパートナーよ!!!」
リトマス試験紙の様に顔を真っ赤にして否定する美神。
「顔に出てるわよ?」
「ああもう、ありもしないこと言わないで欲しいわ!」
「ふふっ。ほんと、言ってることは違っても顔は全然変わんないわねぇ」
藤田は美神の慌てる顔を見てにっこり笑っている。
「横島君には言わないでね、余計なこと」
美神は周りに聞こえないようにぼそりと呟いた。

 「ええとトランクのスイッチはと・・あこれだ」
トランクをあけると中からシロ用のドックフードの缶詰を取り出す。
「しっかし、美神さんも毎度毎度蹴らなくても…」
愚痴をこぼしながらもトランクを閉める。
 その時。背後から何かの気配を感じた。
「ん?」
後ろを振り向いたその瞬間、凶悪な顔が果物ナイフを構えて飛んでくるのが目に入った。
『もらったぁぁ、ファァァァァック』
「げぇぇ、いきなり!!」
横島はトランクを開けたまま反射的に教会へ逃げ込もうと背を向けて走り出す。
「だぁぁぁ!!!」
その逃げ足の速さたるや、もはや人間業ではない。それでもジャックリッパーはあっという間に間合いを詰めて、横島に襲い掛からんとする。
『まず一人!』
加速から突進、そしてでたらめに刃を振り回す!!
「サイキック猫騙し!!」
その時横島はくるりと振り向いて、霊気を帯びた手をたたく!!
バチバチバチッ
霊気がバーストしてすさまじい閃光を放つ。
『ぎゃぁぁぁぁ』
目をくらまされたジャックがすさまじい悲鳴をあげ、あさっての方向を向いたまま突撃を繰り返す。街路樹が、電柱が、立て看板が、壁が、次々と破壊されていく。

「前方12.75に・巨大霊体反応です・ドクターカオス!ヨコシマさんが・戦闘に入った模様」
「解ったマリア!我々も戦闘に加わるぞ!!」
マリアが伝えるとカオスがいち早く反応して飛び出していく。
「思ったより早くきたわね!!」
「よし、冥子君、おキヌ君はシロ君と藤田さんを頼む」
「わたしが倒して賞金はいただくわけ!!」
「やりましょう先生!!」
続けて美神たちも教会を飛び出していく。
「頑張って〜〜〜〜」
冥子がヒラヒラと手を振っている。式神達はさすがに出していない。
「先生ぃ」
シロが僅かに意識を取り戻した。
「シロちゃん、しっかりして」
「大丈夫でござる」
意外としっかりとした声で答える。さすがは人狼回復力が強い。
シロはドアの向こうを見て呟いた。
「敵を取って下さい、横島先生・・」
第二ラウンド、開始。

(7へ)
だんだん長ったらしくんって来た。短編って難しい・・・。

 









 







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