ザ・グレート・展開予測ショー

霧の街より来る悪魔(3)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/ 8/21)

 美神の愛車コブラを駆って、国道沿いを走る美神一行。
 唐巣はかなり焦った様子だった。心配の種は尽きない。
 交差点を左へ。リアタイヤを派手に鳴らす赤いオープンカーに通行人の視線がくぎ付けになった。
 「もっとゆっくり、安全運転で行きましょうよ、身神さーん!!」
 「喋ると舌噛むわよおキヌちゃん!!!」
 直線。アクセルを踏みながら怒鳴る美神。おキヌは歯を食いしばってGに耐える。
 「嫌な予感がするのよ。今朝の夢、不吉な占い。背筋がぞくぞくするほどの嫌な霊感」
 「気のせいですって、うわワン公、あっちいけ」
芝犬を引っ掛けそうになって、横島が慌てて追い払う。
「横島先生、どこへいく出ござるか!!!」
なんも知らされてないシロがまるでハイキングにでも行くかのような浮かれ様で、横島に話し掛ける。
「化け物退治だってさ。唐巣のおっさんから招集がかかったんだよ」
尻尾を振ってしがみ付くシロを押しのけながら、横島。
「たぶんあんたの鼻が必要になるんだから、気を引き締めてよシロ!!横島君も!!!」
「そんなにやばい相手なんですか」
「ええ、唐巣神父とピート二人ががりでも手におえず、あたしと横島君とおキヌちゃん、おまけにシロまでご氏名なんだから、かなり厄介な相手と見て間違いないわ。ふざけてると死ぬかも知れないわよ」
シロが唾を飲み込む。
「震えてるのか?」
かすかな震えを感じた横島が心配そうに尋ねる。
「武者震いでござるよ、横島先生、ん?くんくん」
僅かな匂いを嗅ぎ取ったシロが鼻をひくひくさせる。
「どうした、シロ」
「血の匂い…ッ!!!美神殿、そこの角を右へ!!人が襲われているでござる!!血の匂いと、あの、あの犬飼に似た匂いを感じたでござる!!!」
「犬飼って、あの狼王?」
横島が口にして、飲み込む。恐怖感が全身を貫く。あれから幾度の戦いを経て恐怖を乗り越えるすべを多少なりとも手にした横島だったが、過去に感じた恐怖をぬぐいされるほど強靭な心ではない。
「美神さん!!」
哀願するようなまなざしを美神に向ける。
「…細い、路地?あそこね、シロ」
「あそこの奥でござるは、はうっ…」
シロが鼻を押さえて、苦しそうにうずくまる。
「どうしたの?シロ!!」
「うぅ、遅かったでござる、亡くなり申した」
シロは意識を集中させた嗅覚で死の匂いをモロに嗅いでしまったのだろう。恐怖の死に際の霊気は感情が爆発的に強い。
 胸を押さえてる。それでけで如何に殺されたのかが、分かる。
美神はそれを承知で角を曲がっていく。マンションと封鎖された工場の間の路地。昼間とはいえ薄暗く、人通りはない。
「シロちゃん、大丈夫?」
おキヌが胸にヒーリングをする。気休めでしかないが、シロには優しさが痛いほど分かる。
「っつう、はぁはぁ、大丈夫でござる、拙者は気にせず・・」
精神的な痛みにもがきながら何とか答えるシロ。
車は路地の奥へと入っていく。
キィィ。
惨殺体から十数メートル放れたところで車をとめる。
「おキヌちゃんはシロを。それから西条さんのところに電話して。横島君、行くわよ」
美神はダッシュボードから神通棍を取り出すと言った。
 夢の情景がフラッシュバックする。嫌なデジャブに目を背けるように目を閉じる。
「お、俺もっすか?」
「当たり前でしょう、おキヌちゃんにあれを見せる気?」
「わ、分かりましたよ」
しぶしぶ車を降りる横島。錆びた鉄の匂いが生暖かさと鋭い冷気を帯びている様に感じられた。
美神はつかつかとヒールの音を響かせながら、死体に近づいていく。横島はその後ろから隠れるように付いて行く。
「いや・・」
絶句する美神。視界に入ったそれは、全身から血を流している。失血によるショックが原因だということは素人目にも明らかだった。
「美神さん?」
横島が美神の異変に気付く。こういっては何だが、美神は死体程度で立ちすくむほど線が細い人間には思えない。
「どうしたんすか美神さん!」
死体を目にしないように回り込んで美神に話し掛けたその時。
「後ろ、横島さん!!!」
普段のおキヌからは想像出来ない鋭い声が空気を劈き横島と美神の耳に飛び込む。
横島の背筋に憎悪、というべきほどのどす黒く、重い霊気が這う。
無意識的に美神を押し倒し憎悪にまぎれて襲ってきた必殺の気を回避する。
「こんなときに何するのよ!!!!」
美神の肘鉄が横島を襲うのと同時に横島は反転、上体を起こし霊剣を発現させ二つ目の殺気を受け留める!!!
「何だこいつは!!」
擦り切れだらけのくたびれた黒のスーツ、返り血を浴びて赤く染まったYシャツ、つばの広めのシルクハット、そして右手の果物ナイフを振りおろさんとする小男の姿。
「ジャック!!!」
美神は反射的にその名を叫んでいた。夢と同じ、その姿を見紛う筈はない。
『貴様ぁ、俺を知って!!ファァァァック、この場で必ずしとめる!!!』
小男、悪魔ジャックリッパーは空いた左手のナイフを美神に向ける。
「止めろぉ!!」
横島が力任せに霊波刀を振り切って、ジャックリッパーを突き飛ばす。
『小僧ぉぉぉ!!!』
ジャックは空中で体勢を立て直すと着地と同時に横島に向かってナイフをでたらめに振り回しながら突進する。
「うわぁぁぁ!!」
ただの突進ではなかった。その速さたるや、小竜姫たちの超加速を除けば一二を争うほどのものだ。
「こん畜生おぉぉ!!!こぇぇぇぇぇ」
横島は慌てて霊波刀を構えなおすが間に合わない!!
「たぁぁぁっ!!」
刃が横島の体に触れるか否かのその瞬間に美神の神通鞭がジャックを捕らえ再びジャックとたたき飛ばし壁にたたきつける。が捕らえたのは本体ではなく振り回していたナイフだ。
ジャックは何事もなかったかのように歯を剥き出し刃を打ち鳴らす。
「横島君!!」
「美神さん、このままじゃあやられる!!」
立ち上がりながら横島。
『しねぇぇぇ』
馬鹿の一つ覚えにジャックが突進してくるジャック。この狭い路地では逃げ場がない!!
「せんせぇぇぇぇ!!」
そこに突如シロが飛び出して、霊波刀を振り下ろす!!
『遅いぞ人狼!!!ファァァァァック』
その霊波刀を紙一重で避けるとシロの横をすり抜ける!!
「しくじったかっ!!」
シロの目線がジャックを追う。そしてもう人たち浴びせようとした。が。
ぶしゅううう!!
シロの右太ももから血が噴出す!!
「あれ?・・・・うわぁぁぁぁ、ち、ちが」
「大丈夫かシロ!!!傷は浅い、しっかり気をもて」
横島が咄嗟に傷口を押さえて出血を止めようとこころ見たが血はまるで湧き水のようにたれ流れるばかり。
「美神さん!!!」
横島が叫ぶ。
「血がとまんねぇっすよ、傷は浅いのに!!!」
「先生、このぐらい大丈夫でござるよ!!」
『はぁぁぁぁっはっはっは、どうだいボクのナイフの味は!!!血は止まらないよ、ほんの少しでいいんだ、ほんの少し傷つけるだけで殺すことができる!!!!ファァァァック』
「横島君、それは呪いよ、止血ぐらいじゃ血は止まらない!!!」
美神は確信を持って言う。
「車まで走って!!!逃げるわよ!!!!」
『逃がさないよ!!!!」
突進するジャック。美神はネックレスを首からもぎりとる!!
「走って横島君!!精霊石よ!!!」 
横島がシロを抱えて走り出すと同時に精霊石をたたきつける。
「急いで!!」
精霊石がはじけると同時に美神が車に飛び乗った。
『おのれぇぇぇぇ小娘ぇぇぇ』
ジャックリッパーが光の中で絶叫する。殺意と憎悪を撒き散らしながら。
「乗った??」
「乗りました!!」
返事と同時に猛スピードでバックするコブラ。
そのまま大通りにでて、一気に加速する。
「あそこの後始末は西条さんたちがしてくれるはずだから、このまま教会へ向かうわよ」
「美神さん、シロの血の方はどうにか止まってます」
おキヌがヒーリングをしながら言う。
「頑張っておキヌちゃん。霊波で押さえ込んでるうちは血は止まってるはずよ」
「はい!」
おキヌの返事を聞き流しながら美神は思考をめぐらす。
ジャックリッパーは手強い。さて如何にして倒すか。
考えをめぐらしても、あの悪夢がちらちらと頭をよぎって、考えがまとまらない。
 苛立ちを胸に抱えながら、アクセルを更に踏み込んだ。
                               (4)に続く









  

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