霧の街より来る悪魔（2）
投稿者名：ツナさん
投稿日時：(00/ 8/19)
夢の余韻に浸るまもなく、美神は仕事の依頼の書類に目を通していた。
「お茶はいりました、美神さん」
おキヌが茶を持ってきてくれた。美神は礼を言うと、一口飲む。
「あ、おいし。お茶の入れ方、ほんと上手よね、おキヌちゃん」
「ありがとうございます。ところで朝ご飯はなんにします？」
「軽いものでいいわ。パンとコーヒーで十分よ」
「ハーイ」
おキヌは元気よく返事するとキッチンへ消えていった。
美神は一人きりになると急に夢のことを思い出した。
「ロンドン、霧、夜明け、切り裂き魔…。まるであの殺人鬼ね。…まるで誰かの記憶を覗いたような夢だったわ」
やはり不安が募る。霊能力の強い美神は時折奇妙な夢を見る事が以前からあった。
現世に残された強い思念を無意識の内に自分の精神とシンクロさせてしまうのだ。
正夢にも似た、過去のビジョン…。
「あぁもう、苛々する!!!こういうときは占ってみるのが一番よ」
美神はデスクの引出しから占い用のトランプを取り出し、テーブルの上に五紡星の描かれたテーブルクロスを広げ、中心にトランプを置くと上から時計回しにかき混ぜる。
「何やってるんです、美神さん？」
「トランプ占いよ。最近これが良く当たるの。このトランプは霊感を強く引き出させるよう作られた厄珍堂の特注品よ。こうして時計回しり混ぜて、まとめて並べる、と」
まとめたトランプを中心に、上から一枚ずつとって星型の頂点に三枚ずつ重ねて並べた。
「ほとんどオリジナルだけど、よく当たるのよ。今日は12日と」
右の頂点のトランプを一番下から順にめくる。
「げっ！最悪だわ…」
露骨に嫌な顔をする美神。
「どういうことですか？」
「不幸、「デンジャラスな依頼が舞い込むと出たわ」
「うわ、そりゃきつい」
「となるとあの夢は何かを暗示している？」
トランプをまとめ、クロスで包みながら、考えをまとめようと思案する美神。
ジリリリリ、ジリリリリ。
「あ電話、横島君出て」
突如電話が鳴る。美神にいわれ横島が受話器を取った。
「もしもし…あ、唐巣神父、ええ、はい今変わります。美神さん、唐巣神父からです」
「代わって」
美神は引っ手繰るように横島から受話器を奪う。
「換わりました」
『ああ美神君、至急こっちに来てくれないか。厄介な依頼が舞い込んでね。私とピートだけじゃ手が足りないんだ。至急みんなを集めたい。横島君とおキヌちゃん、それからシロ君かタマモ君も連れてきてくれ』
「何があったんですか？」
『それについてはこっちで話す。とにかく早くに来てくれないか』
「依頼料は？先生？」
『美神君きみね、ぼくはきみの師匠だよ？師匠が困ってるとき金の算段はないでしょう?』
「じゃあ聞かなかったことにしますさよなら」
『待ってくれ。収入がないわけじゃないんだ。たぶん国連本部から五百万ドルは報奨金が支払われるはずだ。その5分の１を保証しよう』
「百万ドル!!!分かりました、令子、急いでそちらに向かいます」
『ああ、助かるよ美神君。それと道中くれぐれも気をつけてくれたまえ、たぶん奴は君の存在に気付いているはずだ。それではできるだけ早く来てくれたまえ、ガチャ』
「奴って、ちょっと、唐巣神父、もしもーし、ったく切れちゃったわ」
受話器を置きながら悪態をつく美神。
「何ですって、唐巣神父」
横島が尋ねる。
「何でも、早く来て欲しいそうよ。横島君シロとタマモを読んできてくれる？」
「タマモちゃんは昨日から真友とか言う子のうちに遊びに行きましたよ。二、三日泊まってくるって言ってたじゃないですか、美神さん」
横島に代わっておキヌが答える。
「そうだったわね。じゃあシロだけでいいわ。それと急いで荷物を用意して。すぐ行くわよ」
美神はてきぱきと指示を飛ばすと、自らも用意を始める。
「何事でござるか？」
シロが寝ぼけ眼でリビングに入ってきた。ぐううと腹の虫がないている。
「シロ、適当に何か食べて。あと５分でいくから」
「仕事でござるか？」
「そうよ、どうもあんたの力が必要らしいから。そこに缶詰あるでしょう？それ食べて」
「美神さん、こっち準備できましたよ」
横島が霊能グッズ一式を納めたリュックを背負って言う。
「ＯＫ。シロもう間に合わないから向こう行きながら食べなさい」
缶詰を開けて食べようと口を開けたシロをせかす。
「酔うでござるよ？」
「いいからいくわよ」
美神は車のキーをデスクからとると、みんなを急かした。
心のどこかに一抹の不安を抱えながも、大金の絡んだ仕事に美神は意欲を燃やしていた。
（3）に続く。
次回予告
緊急の呼び出しを受け唐巣の教会へ向い走り出した美神たち。
その道中で見た恐怖の事件!!!
美神の見た夢は、一体何を意味するのか。
次回ついに霧の街の悪魔の全貌が明らかに!!!!
（前回のコメントへ）
深夜か夜明けかどっちだ、との質問。
時間帯としては午前３時→４時半です。夢の中の時間はかなり曖昧。気付いたらこうでした、なんてことは良くあることです。
そこで時間の流れの曖昧さを明確に表現するために、深夜と夜明け、両方の言葉を使いました。
苦心した結果なのですが・・・。まだ未熟者ですね私は。（ツナさん）
今までの
コメント：
- 美神が占いをする場面、連載のはじめの方を彷彿とさせますね。 (Iholi)
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