霧の街より来る悪魔(1)
投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/ 8/18)
珍しく美神は朝早く目を覚ましていた。
いつもは昼過ぎまでぐっすりと眠り込んでいるくせに、今日に限って早起きしたのにはそれなりに理由があった。
夢を見たのである。
それは19世紀ロンドンのバラック街の細い路地。
おそらくは深夜。
美神は短い金髪の娼婦になっていた。薄暗い石畳の路地を、ヒールの音を響かせながら一人歩いている。
どこまでも続いていそうな路地。人の気配はない。
ばさばさばさぁ
「きゃぁ」
こうもりが飛び立つ音にかわいらしい悲鳴をあげる。
そして静まり返る。再び歩き出す。
少しすると広い広場に出た。白いベンチがあったのでそこで一休みしようと腰をかける。
月明かりが彼女を照らす。空を見上げると星空がぼやけていた。もう明け方近く。
ロンドン特有の濃い霧が、そろそろ立ち込めてくる時間だ。
(いかなくちゃ)
彼女は立ち上がり再び歩き出す。
ぴちゃり。
先ほど座っていたベンチの方からなにか、滑った物が滴り落ちるような音がした。
背中に冷たいものが走る。
彼女はごくりと唾を飲み込むとゆっくりと、恐る恐る振り向く。
『ファァァァァックファーック!!!!』
その瞬間甲高い、耳を劈くような悲鳴にも似た叫び声と、冷たい刃の感触が同時に襲ってくる。
「ッツ!!」
息が詰まる。そして飛び込んでくるどす黒い眼光。そしてゆがんだ口から見えたのは赤く染まったのこぎりのような歯。
首筋から生暖かいものが流れている。
『バイバイ、お嬢さん』
下品な声が耳元で囁かれ。
「キャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「美神さん、大丈夫ですか、美神さん」
「いやぁぁぁあ、あ、夢…」
気付いた時には体中汗でぐっしょりと濡れている。
「美神さん…大丈夫ですか。お水持って来ましょうか、気分が落ち着くと思いますけど」
「大丈夫よおキヌちゃん、ところで私うなされてた?」
そういいながらも顔は青ざめ、口調にもいつものタカビーさがない。
「ええ、かなり。心配しちゃってほんとに」
「嫌な夢だった…。妙にリアルだったのが気になるわね。嫌な予感がする…」
ベットから起き上がりながら、思案にふける。
バタッバタバタバタ、バン
いきなり横島登場。慌しくドアを開けると、美神めがけてダイビングを敢行する!!!
「美神さぁぁぁん、大丈夫ですかぁぁぁ!!!」
「いきなり人の寝室入ってくるなぁぁぁぁ、横島ぁ!!!」
むにゅゴガキィ
横島の右手が何かを掴んだ瞬間カウンター気味に美神の肘が炸裂する!!!
「ム、どぉこ触ってるのよ!!!」
ボカバキドコボコ、バキバキ!!!
「あぁぁぁ、すいません、すいません!!!」
あっという間に血だるまな横島。
「全く、このばかは。おキヌちゃんいくわよ」
「はぁい」
「ええ感触だったぶっ」
じっと掌を見るよこしまに更に枕が投げつけられる。枕の中にも何か仕込んであるのか鈍い音がした。
「少しは反省しろ!!」
もう一度怒鳴りつけて、憮然とした、それでいてすっきりとした表情で寝室を出て行く。
「クスクス」
「何かおかしいのおキヌちゃん」
「だって、美神さんすっかり元気になって。横島さんもけっこういい所ありますね」
「どこが!単に助平なだけよあの男は」
もう、夢のことなんてすっかり忘れてしまった様に見える。
いつもと代わらない台詞におキヌは胸をなでおろした。
(2)へ続く
今までの
コメント:
- 深夜?夜明け?どっち?>夢の情景
あと、注文つけるとしたら細切れで長くならないようにね>連載 (K’)
- 『むにゅゴガキィ』が、何となくツボに入りました。 (Iholi)
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